2025.12.24

北野天満宮「風月の庭」を訪れて―文化学部 マレスゼミがフィールドワークを行いました

文化学部マレス エマニュエル准教授の「京都文化フィールド演習G(1年次)」は、11月22日(土)に北野天満宮を訪れ、庭師(御庭植治・代表取締役)の小川 勝章氏の案内で普段非公開の「風月の庭」を見学しました。当日の様子について、ゼミ生からのレポートをお届けします!

この授業では「日本庭園のみかた」をテーマに、体全体で庭園に触れ、見た目だけでは把握できないところにまで考察を深めていけるように活動をしています。これまでの見学で訪れた庭園のうち、2つは国の名勝に指定されています。普段立ち入ることのできない燕庵露路では、お茶をいただきながら茶庭の独特な文化について学びました。一般公開されている渉成園では、植禰加藤造園の庭師が、京都の伝統的な手入れと生物の多様性保護との融合という時代に応じた庭園のあり方などを紹介してくださいました。

今回は学生にも馴染みのある北野天満宮に足を運びました。学問の神様というだけあって、フィールドワーク参加者の半分以上は大学受験前に参拝したことがあるとのこと。しかし、北野天満宮に「庭」があるということは、ほとんど誰も認識していませんでした。当日は楼門の階段下で小川 勝章氏と集合し、まずは参道に立ち並ぶ松と、境内に点在している梅に焦点を当てて、この2種類の木が北野天満宮の象徴的な植物で、とても大事にされていることを説明していただきました。

北野天満宮の紹介をするときに、庭師の小川氏が注目されたのはやはり境内に多く点在している松と梅の木でした

小川氏と一緒に本殿にお参りをしてから、境内の北東にひっそりと佇む風月殿という建物に向かって歩いて行きました。風月殿は元々、神職者の養成や皇典の研究所として1873年に建てられ、2023年にリニューアルされたことをきっかけに『風月殿』と名前を改めて、現在は主に接客の場として利用されているようです。

風月殿の庭は当時、近代日本庭園の先駆者である植治こと七代目小川 治兵衛(1860-1933)によって作られたとされていますが、2023年に次期十二代目小川 勝章氏の率いる御庭植治によって「風月の庭」として生まれ変わりました。

風月殿の座敷の前に広がる庭はまるで絵画のよう(1枚の写真ではその全体像が伝わらないので、2枚の写真を合体させてみました)

風月殿の襖を開くと、私たちの目の前に大きなキャンバスに描かれた絵画のような庭が現れました。あまりの美しさに皆が一瞬立ち止まりました。築山、滝、流れ、鯉が泳ぐ池、石灯籠や多種多彩な自然石、凛と佇む松と自由に枝を伸ばすもみじなど、多くの構成要素が組み込まれているにも関わらず、一体感がありました。

そこには小川氏の独創的な発想も詰め込まれています。例えば、北野天満宮の近くにある七本松通という名前にちなんで7本の松が植えられていたり、梅の花の形をかたどった赤い石たちが配置されていたりしました。小川氏にとって、庭とは綺麗な景色だけではなく、見る人が想像を掻き立てるような場所だと仰っていました。

風月殿の座敷にて、小川氏が作庭の経緯や工夫などを説明してくださいました

このような自由なアイデアはどこから生まれてくるのかと疑問に思って、小川氏に尋ねてみました。「常に考えているわけではないけれども、日常生活の中で見聞きしたものが作庭のアイデアにつながり、パッとひらめく時があります」とのこと。このような立派な庭でも普段の生活とつながっているんだと思うと、より身近な存在になって親近感が湧きました。

今回の庭を作るに当たって、新たな樹木や石などをたくさん持ち込んだそうですが、遠い山や川などから材料を持ってくるという行為自体が自然破壊に繋がってしまうのではないかと、小川氏が庭師として日々に抱えている葛藤についても話してくださいました。

当日は秋日和と名のつくほどの晴天。皆で外に出て、庭の日々の手入れについて話を聞きました

御庭植治の庭師二人のアドバイスに従って、庭の掃除をしたり、また樹木の剪定法も学びました

また、京都でもっとも有名な龍安寺の枯山水が自然から余計なものを削って必要最低限な要素だけを残す引き算の庭だとすれば、今回の庭は石や樹木、植物などのさまざまな要素を重ねていく足し算の庭だと、説明されました。しかし、足し算というのは材料のことだけではなく、「今回は自分の祖先、七代目小川治兵衛と共同作業をするような気分でもあった」と語られました。

北野天満宮と言えば牛。風月の庭の中でも、七代目小川治兵衛が設置したと言われる牛の像と、今回の作庭に当たって、小川勝章氏が新しく導入した牛に見立てた自然石がある

北野天満宮の禰宜・橘重史さんと御庭植治の小川勝章氏に囲まれて

こうして、京都の庭は形を変えながらも代々大事に引き継がれていることを実感できたフィールドワークとなりました。


(京都文化学科マレスゼミ1年生一同)