2025.12.19

経営戦略の常識を覆す!「非競争の競争戦略」

京都産業大学経営学部では、多様なゲストを招いた特別講義を多く実施しており、学生が普段とは異なる視点や、刺激を得られる貴重な機会となっています。今回は、森口 文博助教が担当する「経営戦略論(事業戦略)」の講義で、神戸大学経営学研究科 吉村 典久教授によるゲストスピーカー講演「非競争の競争戦略」を実施しました。

「競争しない」ことが戦略の核心

講義の冒頭では、経営戦略論の大家マイケル・ポーター氏の理論が紹介されました。「戦略」というと「戦う」イメージが強いですが、「ポーターの競争戦略」の本質は実は「競争がない場所で商売をする」ことだと吉村氏は強調しました。

利益を奪い合う市場で戦えば、収益は削られます。業界内に強力な業者がいる場合や、新規参入がひしめく環境では、企業は疲弊するだけです。だからこそ、競争を避ける「非競争」の発想が重要です。

競争のない市場を築く3つの基本戦略

既存市場で競争を避けるには、次の基本戦略を徹底する必要があります。

  1. コストリーダーシップ:大量生産・大量販売で低価格を実現
  2. 差別化:品質や体験で唯一の価値を提供
  3. 集中(ニッチ戦略):特定顧客に特化し、代替不可能なブランドを築く

吉村氏は、マクドナルドやモスバーガーの事例、自動車業界の事例をもとに、3つの基本戦略を説明しました。

「価値」で考える発想転換

自社の商品が顧客に売れるためには、商品そのものではなく、「何を提供しているか」=顧客価値で考えることが重要だと、吉村氏は説明しました。

例えば、家庭用たこ焼き器を開発した会社に、大阪に本社のある山岡金属工業株式会社があります。この商品、当初はまったく売れませんでした。そこで同社は、商品が提供する価値を見直します。「美味しいたこ焼き」ではなく「家族や友人と楽しむコミュニケーションツール」の価値に気づき、例えば子供たちのお誕生日会が開催される際の招待券を同梱する工夫で、爆発的なヒットを生みました。

任天堂とソニーに学ぶ「協調」の戦略

ゲーム業界での任天堂とソニーの歩みは、熾烈な競争ではなく市場全体を拡大する協調戦略の一例であると吉村氏は説明しました。

  • 任天堂は、子どもや家族が安心して楽しめるゲームで裾野を広げました(例:『マリオ』『あつまれ どうぶつの森』『スプラトゥーン』)。
  • ソニーは、成長したユーザー層に向けてハードコアなゲームを提供し、深く掘り下げました(例:『バイオハザード』)。

このように、上手に競合と協調し、マーケットそのものを大きくしたことが、両社が成功した大きな要因です。経営戦略の本質は「戦う」ことではなく、「戦いを略する」ことにあり、競争のない市場を見つけ、商品の真の価値を見極め、時にはライバルと協調して市場を広げることが重要であると強調しました。

学生の感想

  • これまでは、「戦略=ライバルに打ち勝つこと」だと考えていましたが、「戦略とは、戦うことを略すること」という言葉は、非常に深く響きました。不毛な消耗戦を避け、あえてライバルと正面からぶつからない道を選ぶことこそが、持続的な成長のための賢明な選択であるという本質を学べました。
  • 実際にあった事例を交えながら、これまで教わってきた戦略を説明していただけたので、分かりやすかったです。現在も好業績な大企業は、経営学における基本を忠実に守っているという話がありましたが、その基本を忠実に守れるような経営体制を維持できていることも、重要だと感じました。