国際関係学部の専門教育科目「グローバルガバナンス論II」(担当:井口正彦 准教授)は、世界政府が存在しない中で、国境を越える課題(グローバル・イシュー)をどう解決するかを考えることを目的に開講しています。今回の授業では、国連開発計画(UNDP)で10年以上に渡り国際協力の現場で活躍されてきた槌谷恒考氏をお招きし、「グローバルガバナンス危機の時代における国際協力の理想と現実」と題してご講演いただきました。
(学生ライター 経営学部2年次 野村 明花)
槌谷氏は、ブルキナファソでの青年海外協力隊、日本・アルジェリアでの商社、日本・コンゴ民主共和国でのJICA(国際協力機構)、アフリカ・中東でのUNDPなど国際協力の最前線で活動し、紛争地での和平合意支援や水資源問題など、複雑な課題に取り組んでこられ、現在は、神奈川大学法学部の特任講師、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究助手を務められている方です。
国際協力の脆さと希望
講演は、JICAのホームタウン事業の内容がネット上で炎上し撤回された事例から始まりました。(JICAの「ホームタウン事業」は、地方自治体と連携し地域活性化を目指す取り組みでしたが、SNS上で「国際協力の名を借りた観光振興ではないか」といった批判が急速に拡散し、炎上を受けて撤回されました。)この事例は、国際協力の取り組みが社会的評価や情報発信の影響を強く受けることを示しています。槌谷氏は「国際協力はろうそくの火のように簡単に消えるが、協力し合う気持ちは消えない」と語り、国際協力の本質は人々の信頼と意志にあることを強調しました。
平和の定義と積極的平和
次に、「平和の対義語は暴力である」という視点から、積極的平和の概念を解説されました。直接的暴力をなくすだけでなく、構造的・文化的暴力を排除する取り組みが必要であり、そのためには現地の意思やオーナーシップが不可欠だと述べられました。
イエメンの現実
最後に、イエメン共和国での事例を紹介されました。イエメン共和国は領土のうち人口の多い地域にイランが支援するフーシー派が制圧しており、統治機構・通貨・経済、全てが二分され、水源と貯水タンクがフーシー派の領域に集中していることから住民の3分の2が水不足に陥っています。槌谷氏は国連開発計画平和支援事業ユニットのチームリーダーとしてイエメンの和平合意に関する実施事項を支援するチームを統括した経験から、「紛争を解決しないと水問題も解決しない」「現地に行かないと複雑な地理や民族関係は理解できない。現地には自ら解決しようと行動している人が必ずいる」と述べられ、現場で活動することの重要性を訴えました。
講演を通じて、私は国際情勢をニュースだけで理解することの限界を痛感しました。現地の実情を知ることが、より深い学びにつながると実感し、今後は情報を鵜呑みにせず、自ら調べ、考える姿勢を大切にしたいと思います。