2025.10.31

ホテルニューアワジグループに学ぶ、サービスの「再生」と地域共生の「未来」

 経営学部「サービス・マーケティング」(担当教員:上元 亘 准教授)は、サービスの本質を明確にし、企業と顧客の関係性、製造業のサービス化の理論を学修します。今回は、ホテルニューアワジグループ代表取締役社長であり、淡路島観光協会会長も務める木下 学氏をゲストスピーカーに迎え、「~『旅の力』を介した地域との共存共栄へ、ニューアワジグループの挑戦 宿泊業の存在価値~」というテーマで講義が行われました。

(学生ライター 文化学部3年次 向井 優)

ホテルニューアワジグループのホテル事業と他のホテル事業との違い

木下氏は本学経営学部の卒業生であり、株式会社ロイヤルホテルでの勤務を経て、家業であるホテルニューアワジへ入社。2015年に代表取締役社長に就任し、現在は20館のホテル・旅館を運営し、淡路島観光協会の会長も務められています。
講義では、ホテルニューアワジグループのホテル事業と他のホテル事業との違いを述べられました。まず、各ホテルの名称が多様である点です。ホテルニューアワジグループでは、それぞれの施設に「ニューアワジ〇〇」と一律に名付けるのではなく、施設名に地域性を反映し、ホテル毎に独自のコンセプトを採用しています。

次に同グループが運営するホテルの多くは「再生の可能性」を見極めた上で、地方創生や企業のブランドの価値や方向性を見直し、再構築するリブランド活動が行われている点です。事例として紹介されたのが、同グループの「湯山荘阿讃琴南」(ゆざんそうあさんことなみ)と「シロヤマテラス津山別邸」の2つのホテルです。「湯山荘阿讃琴南」は、香川県の山間部に位置する温泉旅館で、かつてはコンクリートの塊のような宿泊施設でしたが、リブランド後は自然と溶け込む佇まいへと生まれ変わり、露天風呂から川のせせらぎが楽しめる癒しの空間となりました。
一方、シロヤマテラス津山別邸は、岡山県津山市の中心部に位置し、地域文化のショーケースとしての役割を果たす施設となっています。地元の特産品を売店で紹介・販売するなど、地域とのつながりを重視した運営が行われており、「別邸に集う」というブランドコンセプトのもと、観光客だけでなく地域住民にも開かれたコミュニティスペースとして機能しています。

ホテルニューアワジグループ代表取締役社長 淡路島観光協会会長 木下 学氏

競争ではなく共存を重視し、地域全体の活性化を目指す

経済のバブル崩壊や阪神・淡路大震災などを経て、団体旅行から個人旅行へと世の中のニーズが大きく変化した中で、観光・ホテル業界全体は非常に厳しい経営状況に追い込まれていきましたが、ホテルニューアワジグループが20館のホテルを設立できた背景には、「街の灯りを消してはならない」という強い信念があると木下氏は語ります。
木下氏は、「ある人は隣のライバルホテルが潰れればそれはチャンスだと言うが、ホテルニューアワジに日頃の疲れを癒すために訪れたお客様が、廃墟となった隣の旅館を借景に本当にリラックスできるのか」という疑問を持たれたそうです。「旅館やホテルは単独では成り立たず、提供されるサービスにはさまざまな企業や地域の人々の協力が不可欠である」と語られました。2025年には、競争ではなく共存を重視し、地域全体の活性化を目指す姿勢は高く評価され、「関西財界セミナー賞」特別賞の受賞にもつながりました。

パネルディスカッションの様子

さらに、ホテルニューアワジグループでは、ユニバーサルツーリズムやSDGsへの取り組み、食の地産地消の推進活動にも力を注いでおり、常に時代の変化を捉えながら、先を見据えた活動が展開されています。
講義の最後には、ホテルニューアワジCSO(チーフストラテジーオフィサー)である髙木氏と、上元准教授を交え、「AI・ロボット時代におけるスタッフならではの、おもてなし」というテーマでパネルディスカッションが行われ、AIやロボット技術が進化する中で、人間のスタッフが果たすべき役割や、テクノロジーと人間の協働による新しい歓待の精神であるホスピタリティの形について議論が交わされました。


広い視野を持ち、さまざまな角度から事業と地域の共生的な発展を目指すホテルニューアワジグループの経営理念は、単なる宿泊業の枠を超え、サービスの価値を再定義するものであり、今後のサービス・マーケティングの学びに大きな示唆を与える内容となりました。受講した学生らにとって、視野が広がる有意義な時間となりました。