2025.10.20

「国際キャリア開発リサーチ(C2)」をパラオで実施しましたー (前編) 政府機関インターンを通じてパラオの社会を学ぶ

国際関係学部 4年次 山本 悠斗

「国際キャリア開発リサーチ」は、国際的な活動を行う公的機関や民間企業・団体などと連携し、プロジェクト研究や問題解決型研究に取り組む短期集中型の演習・実習科目です。今年度の「国際キャリア開発リサーチC-2」(担当:三田貴教授)では、学生6人が8月8日から8月29日までの3週間、パラオに滞在し、政府・公的部門でのインターンシップを経験しました。受け入れ先は、大統領府(Office of the President)、パラオ議会上院議員(Senator Secilil Eldebechel議員)、人的資源・文化・観光・開発省 観光局(Bureau of Tourism=BOT)、パラオ政府観光局(Palau Visitors Authority=PVA)、およびコロール州固形廃棄物管理事務所(Koror State Solid Waste Management Office=リサイクリングセンター)です。

1.インターンシップの概要

各機関で学生たちはどのような業務を経験したのでしょうか。その取り組みの一端を紹介します。

大統領府(Office of the President)

大統領府でのインターンシップは、「パラオ外交の現状を理解し、国家的課題を調査する」ことを目的として実施されました。今年度の参加学生は、①国のトップ機関で働く人々の業務を知ること、②大統領と市民の関わりを学ぶこと、の二つをテーマに活動を進めました。具体的には、大統領府公式Facebookに掲載する記事の作成や写真撮影を担当したほか、来訪する関係機関の情報整理や報告資料の作成などにも携わりました。

担当学生のリサーチテーマは「パラオが持続可能な観光に強い重点を置く理由」でした。現地では、観光政策の背景を理解するために関係者への聞き取りや資料調査を行い、スランゲル・ウィップス・ジュニア大統領にも直接インタビューを実施しました。調査の結果、持続可能な観光を支える要因として、パラオ人自身の観光業への参画促進と、政策立案者と観光事業者の協働の重要性を見出しました。担当学生は、若者のスキル育成や環境に配慮した規制の段階的導入など、地域社会と連携した観光のあり方を提案しました。

パラオ観光の未来像についてウィップス大統領にインタビュー
パラオ政府人的資源・文化・観光・開発省 観光局(Bureau of Tourism=BOT)

観光局(BOT)でのインターンシップは、「パラオの観光規制や観光客の安全管理を実践する」ことを目的として実施され、学生2名が配置されました。今年度BOTに参加した担当学生のリサーチテーマは、「2025年から2028年の間にBOTが新たに導入する観光政策を踏まえ、パラオと日本の観光政策を比較することで、持続可能な観光の実現に向けた方向性を探ること」でした。

リサーチ活動では、文献調査と現地調査を組み合わせ、幅広い分野に取り組みました。まず、日本とパラオの観光政策や関連文献を比較し、制度や規制の違いを整理しました。次に、アグリツーリズムに関するセッションへの参加、政府機関やBOT内部での会議への参加を通じて、観光行政の意思決定過程を学びました。また、ダイビングクルーズ船の安全管理調査や、環境保全に取り組む機関の訪問、アイライ州でのエコツアーの参与観察を行い、現場での取り組みを理解しました。さらに、観光業関係者へのインタビューを通して、政策実施に関わる現場の課題や期待についても意見を聞き取りました。

これらの活動を通じて、担当学生たちは観光政策の理論と実践の双方を理解し、パラオ社会における持続可能な観光のあり方を多角的に考察しました。

アイライ州のエコツアーのモニター参加
パラオ政府観光局(Palau Visitors Authority=PVA)

パラオ政府観光局でのインターンシップの概要は、「観光客の集客のための方策を提案する」ことでした。

今年度PVAで活動した学生は、通常業務として、PVAが東京で実施する観光セミナーに向けた資料作成を補助しました。具体的には、①セミナーで使用するプレゼンテーション資料の日本語訳、②公式ブログ記事の翻訳、③広報用文書の翻訳などを担当しました。さらに、Familiarization Tour(観光関係者向けの視察ツアー) に同行し、Rock Islandsなどの主要観光地を訪問しました。この同行を通じて、パラオの自然環境や観光資源の特徴、そして観光客の関心の傾向を現場で観察することができました。これにより、観光プロモーションに携わるうえで不可欠な「現場を理解する感覚」を身につけ、広報活動に活かす視点を養う貴重な機会となりました。

また、独自のリサーチとして「パラオ・ローカルフードマップ」作成に取り組みました。この発想は、パラオ各地に点在する魅力的なローカルフードが、現地の人々と特に関係を持たない訪問者には十分に伝わっていないのではないかという問題意識から生まれたものです。地元の飲食店や市場を訪問し、料理の特徴や提供者の思いを取材することで、観光客と地域社会をつなぐ新しい情報発信のあり方を探りました。

作成したローカルフードマップのプロトタイプ
パラオ議会上院(受け入れ議員Senator Secilil Eldebechel上院議員)

パラオ議会上院では、立法に必要な事前調査を目的としてインターンシップを実施しました。上院議員事務所で活動した学生は、国の重要課題である海洋保護区に関するリサーチに取り組みました。学生は、海洋保護区およびその見直し計画に関する資料を収集し、関係者への聞き取りを通じて得た情報を整理・分析して報告書を作成しました。また、政府関係者、専門家など多様な立場の人々にインタビューを行い、それぞれの視点から海洋保護区の課題や見直しに対する考えを調査しました。これらの活動を通じて、立法過程を支える調査の重要性や、海洋資源管理における多角的な意見の把握方法について理解を深める貴重な経験となりました。

受入先のエルデベエル上院議員(右)と、ナカムラ上院議員(左)とともに
コロール州固形廃棄物管理事務所(リサイクルセンター)

コロール州リサイクルセンター(Koror State Solid Waste Management Office)でのインターンシップは、「日本の国際協働のあり方を言語化し、将来の環境のあり方を提言する」ことを目的としました。今年度、同オフィスで活動した学生は、「パラオにおける廃棄物管理と持続可能な仕組みづくり」をテーマに取り組みました。学生は、リサイクルセンターが実施するさまざまなプロジェクトについて職員にインタビューを行い、現場での課題や工夫を学ぶ機会となりました。また、地域の家庭菜園を支援する取り組みや、高校生が農業の授業で土づくりから収穫までを体験する活動にも参加し、関係者への聞き取りを通じて、環境教育や地域連携がどのように進められているのかを総合的に理解しました。こうした活動を通して、学生は国際協働の現場で持続可能な社会づくりに貢献するための視点を養いました。

地元コミュニティに配布する苗の準備をするインターン生

各学生は、上記のようにそれぞれ異なるインターン受け入れ先に分かれ、自身の担当テーマや活動内容について約2週間にわたり学習と実践を重ねました。その過程で得た知見を整理し、パラオ社会の課題を見出すとともに、その解決策を含めた内容をプログラム終盤の最終報告会で発表する構成となっていました。報告会に至るまで、学生たちはインターン活動に熱心に取り組み、それぞれが貴重な経験を積むことができました。

2.インターンシップから得た学び

各学生は、今回の国際キャリア開発リサーチを通じて、現場での実践的な学びを得るとともに、国際的な視野と主体的な問題発見力を高めました。行政機関での活動では、公的な業務における責任の重さと、チームで成果を出すための協働の重要性を体感しました。観光分野での実習を通しては、環境保全と経済発展を両立させる政策の難しさを理解し、持続可能な観光の実現には制度だけでなく、人々の意識変革や文化理解が欠かせないことを学びました。また、政策立案や地域課題の現場に関わる中で、学生たちは「一つの正解ではなく、多様な立場の調整と対話こそが解決への第一歩である」という気づきを得ました。これらの経験を通して、国際社会で求められる実践的判断力とコミュニケーション力を育むことができたのは、本プログラムの大きな成果といえます。

こうした全体的な学びの一方で、筆者自身も現場での経験を通じて多くの発見を得ました。私自身は観光客の安全管理や規制づくりを担当する政府部局である観光局(Bureau of Tourism)にて、インターンとして活動しました。観光局では、職員5名とインターン2名の計7名が、観光に関する安全対策やルール整備の調査を進めていました。活動は初日のオリエンテーションから始まり、パラオと日本の観光政策に関する資料を読みながら理解を深めるとともに、観光局が用意してくださった現場活動にも参加しました。
なかでも印象に残っているのは、宿泊型観光船(Liveaboard)の安全調査です。ボートで海に出て沖合に停泊する船を訪れ、客室や厨房、倉庫などを視察しながら、安全管理体制やトラブル防止のための取り組みを確認しました。観光局が現場に直接赴き、実際の運用状況を把握しながら安全対策を検討している様子を体験できたことは、観光行政の実際を理解するうえで非常に貴重な経験となりました。

さらに、資料調査や観光局の業務活動に加えて、「持続可能な観光の実現」をテーマに現地ショップを訪問しインタビューを行い、ゼミで学んだ会話分析の手法を用いてパラオ社会の課題を検討しました。得られた分析結果をもとに観光業が抱える問題を整理し、改善に向けたロードマップを作成して報告会で提案しました。また、日本の持続可能な観光に関する取り組みの中から、パラオ社会に応用可能な事例も紹介しました。
これらの経験を通じて、持続可能な観光に向けた課題発見力や、政策提案に結びつく思考力を養うことができたと感じました。

宿泊船の安全管理調査の際の対象となる船舶