法学部専門教育科目「地方自治未来論」(担当:山田 啓二 教授)は、地方自治の現場で活躍するリーダーを招き、政策や課題について直接学ぶ授業です。学生は行政の実情やリーダー像に触れながら、地方自治への理解を深めることができます。今回は西脇 隆俊 京都府知事をお招きした授業が行われました。
(学生ライター 現代社会学部3年次 町野 航汰)
今回の講義は、西脇 隆俊 京都府知事から地方自治の現場での経験や政策について直接お話を伺う貴重な機会となりました。授業前半は西脇知事のキャリアや京都府の取組の紹介、後半は前京都府知事で科目担当教員の山田 啓二 教授との対談、そして学生からの質疑応答という流れで進められました。
新型コロナウイルス感染症への対応
講義の冒頭では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大時の京都府の対応について語られました。2020年4月に初めて緊急事態宣言が発出されましたが、当初京都府は対象地域に入っておらず、京都府と京都市で記者会見を行い、京都府も対象地域に加えるよう政府に対して要請したことなどについて、当時の行政判断の背景などを説明されました。知事は「新型コロナウイルス感染症の感染拡大は人と人の接触を止めれば収まるが、そうすると社会経済活動が止まってしまう」と語り、「感染拡大を防ぐことと経済を回すこと、その両方の解を求めた3年間だった」と述べられました。また、飲食店の営業時間短縮や、外呑みの自粛などはすべて罰則や罰金などがなく、行政からの“お願いベース”であり、これは府民と行政や当時の政治の間に一定の信頼関係があったからこそ成り立ったものであったとのことです。
このような新型コロナウイルス感染症への対応を通した経験やロシアによるウクライナ侵攻で、連日のように子どもや女性、立場の弱い方が被害に遭われている様子が報道されていたことなどから、知事は人と人との触れ合いを大切にしたいと考え、「あたたかい京都づくり」の必要性を強く感じたそうです。その理念は、「子育ち」だけでなく「親育ち」や親同士のネットワークの構築につなげる「親子誰でも通園制度」、子どもと大学生など若者の交流機会を増やし、「子育ては楽しいもの」というポジティブなイメージを広げる「京都版ミニ・ミュンヘン※」といった京都府が行っている子育て政策などに活きていると感じました。
※ミニ・ミュンヘンについて
ドイツのミュンヘン市において30年以上続く、7歳から15歳までの子どもだけで仮設のまちを運営する取組。京都府では令和6年度に福知山市及び八幡市において「京都版ミニ・ミュンヘン」を実施している。(京都府ホームページより)
元京都府知事 山田 啓二 教授との対談
分断社会についてどう考えるか?
山田教授は、SNSの影響などによって社会が分断されている現状について質問しました。これに対し西脇知事は、日本が食糧やエネルギーを輸入に頼っている現状を踏まえ、「分断は日本人のためにはならない」と答えました。また地域内で見ても、分断が進むほど相対的な幸福度が下がっていくため、それを緩和することが行政の重要な役割であると述べました。
少子化と人口減少社会への対応は?
次に山田教授は、少子化の深刻さと人口が減っても持続可能な社会のあり方について問いかけました。西脇知事は「人口減少社会においても、社会サービスを維持することが最も大きな主題」と位置づけ、「我慢するということではなく、人口減少社会においても、明るくいきいきと生活していけるようにすることが重要」と語りました。そして「今年生まれた子が生産年齢人口になる18年後までは人口構造が固定されている」と指摘し、思い切った発想の転換が必要になってくると訴えました。
本講義を受け、学生の日常では触れる機会の少ない行政の政策実践について理解を深めることができたことは、非常に意義深い経験でした。近年、若年層の選挙離れが深刻な社会課題として取り上げられていますが、日本の未来をより良いものにしていくためには、政治に関心を持ち、行政が実際にどのような施策を講じているのかに対し、常にアンテナを張っておかなければならないと強く感じました。