2025.09.05

1:1型授業「インディペンデント・リサーチ」で学ぶ、日本酒×体験型観光施策

川島教授と発表者の工藤さん

国際関係学部演習科目「インディペンデント・リサーチ」の春学期成果報告会が開催され、同学部4年次 工藤 愛芽さんが研究発表を行いました。この選択科目では、学生が自ら研究テーマを設定し、教員と1対1で調査・研究を進めていきます。フィールドワークや企業との連携を通じて、理論と実務を結びつける実践的な学びが特徴です。今回の報告では、日本酒を切り口に、外国人観光客のニーズに応える体験型観光の可能性が示されました。

(学生ライター 経済学部 3年次 濱田  夏音)

研究テーマと目的

工藤さんの研究テーマは 「インバウンド需要に向けた体験型観光施策~日本酒体験ツアーを例に~」。アフターコロナの観光業において、外国人観光客の主な関心が“日本食”に集中していること、またリピーター層が“非日常体験”や地域文化に強い興味を持っていることから、日本酒を切り口に体験型観光施策の可能性を探る研究に取り組みました。

発表の様子
【調査の概要】

調査では、日本酒体験ツアーを展開する「伏水酒蔵小路」「黄桜 伏水蔵」の2社に協力を得て、インタビューやツアー同行調査を実施。さらに、本学留学生や米国ビジネススクールの参加者へのヒアリングも行い、多角的な視点から分析を行いました。

【調査結果】

両施設とも、外国人観光客のニーズに応じた工夫を凝らしており、体験型観光の可能性を示す好例となっています

「伏水酒蔵小路」

・きき酒セットの提供

伏見地域18蔵の銘柄をテイスティング形式で楽しめる。

・ 多言語対応とセルフ式サーバー

英語対応のほか、プリペイドカードによるセルフ式サーバーを導入。

・広報施策の工夫

レビュー投稿で“お猪口”をプレゼントするなど、来訪者の参加を促す仕組み。

「黄桜 伏水蔵」

・体験型ツアーの実施

酒造りの歴史展示・映像解説・試飲体験を組み合わせたツアーを提供。

・国籍に応じた提案

「フランス人には酸味のある酒」など、国別の嗜好に合わせたパーソナライズ対応。

・視覚的価値の発見

ラベルデザインが「アート」として評価されるなど、日本酒が視覚的にも楽しめる文化的要素を持つことが明らかに。

提案されたマーケティング施策

工藤さんは調査結果をもとに、インバウンド向け体験型観光施策として、以下の3つを提案しました。

①デザイン強化

ラベルやボトルデザインのアート性を高め、文化背景と結びつけた印象的な訴求を行う。

②ペアリングとガイド内容の最適化

言語・宗教・文化背景に応じた柔軟な案内と国別ペアリング提案。
(例)ビリヤーニ(インド)×醇酒(日本)
趣向に合わせた柔軟な提案は、体験型観光の強みであり、満足度向上の鍵となる。

③SNS連携強化

来場体験をSNS上で共有しやすくすることで情報拡散と集客力の向上を図る。レビュー投稿を促す仕組みなど、デジタル施策との連携を意識した動線づくりが重要。

これらの施策は、体験型観光における顧客満足度の向上に寄与する可能性があると結論づけられました。

【質疑応答と発展】
質疑応答の様子

質疑応答では、和やかな雰囲気の中で多くの意見が交わされました。「欧米の観光客はツアー後に酒を購入するのか」という質問に対し、工藤さんは「試飲での購入は多くあったが、お土産の購入につながったケースは見学させていただいた時は少なかった」と回答。ただ実際にその場で購入がない場合でも、帰国後に日本酒をはじめとした日本文化に興味を持ってもらうことが重要であり、体験型観光の奥深さが感じられました。


春学期の限られた期間内で、企業との連絡から現地調査、施策の提案までを一貫して行った工藤さん。インタビューにとどまらず、得られた情報を多角的に分析し、説得力ある発表へとまとめ上げた姿が印象的でした。また、イスラエルの宗教文化における「キッパ(Kippah)」と、日本の「河童」の言葉遊びを案内に取り入れたところ、外国人観光客に好評だったというエピソードも紹介されました。異文化をユーモアでつなぐ工夫は、体験の満足度をより高める一例として興味深く感じられました。通年開講の「インディペンデント・リサーチ」は、学生の自主性と探究心が問われる科目です。専門知識を実務に活かす学びは、将来にもつながる貴重な経験となります。履修を検討している皆さんも、ぜひ挑戦してみてください。