2025.09.02

「生活保護法基準引き下げは違法」最高裁判決の舞台裏

京都産業大学法学部の草鹿 晋一 教授のゼミにて、令和7年6月27日に最高裁判所が言い渡した「生活保護基準引下げは違法」という歴史的判決をテーマに公開ゼミが行われ、同裁判の弁護団の一員である伊藤 建(いとう たける)弁護士をゲストとしてお迎えし、判決に至るまでの舞台裏についてお話しいただきました。

(学生ライター 現代社会学部3年次 町野 航汰)

ゲスト講師の伊藤 建 弁護士

この裁判を理解するための事前知識

講義はまず、生活保護制度の概要を押さえることから始まりました。生活保護制度の根幹には「昭和58年の意見具申」にある「生活扶助基準の改定に当たっては、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえる」という原則があります。つまり生活保護費は、「一般国民(下位10%にあたる)の消費金額をベースとして、その生活水準に合わせる」という決まりがありました。しかし2012年、民主党から政権を奪還すべく、自民党が当時行われていた「生活保護バッシング」に乗る形で「生活保護費の一律1割カット」を公約として掲げたことにより、生活保護費削減が政治的争点となりました。その結果「ゆがみ調整」や、デフレ下で実質的な購買力の変化は見られないとする「デフレ調整」といった施策が導入されました。本裁判は「この2つの施策には適法性があったのかどうか」が争点となりました。

裁判での判断

結論からお伝えすると、最高裁判所は「デフレ調整」は違憲であるという判決を下しました。判決の根拠として以下の点が挙げられます。
・昭和58年の意見具申には「民間最終支出の伸びに準拠する」「物価は参考資料にとどめる」と記載があったこと。
・それにもかかわらず、政府は物価を基準に「デフレ調整」を実施したこと。
これらの事実を踏まえ、裁判所は「生活保護基準の引き下げは制度の趣旨に反し、憲法に違反する」と結論づけました。

講義を行う伊藤 建 弁護士

本裁判の舞台裏

講義の終盤には、判決に至るまでの舞台裏についても詳しく語られました。全国の弁護士が連携する「全国抗争ネット」の活用や、定期的な弁護士団の連絡会議の開催、研究者による意見書の提出、そして弁護団を統率するリーダーの存在など、複数の要素が有機的に結びつき、勝訴への道を切り開いたといいます。伊藤弁護士は、「どれか一つでも欠けていれば、勝てなかった」と語り、司法の現場における協働の重要性を強調されました。

講義を聞く学生の様子

今回の公開ゼミを通じて、普段知ることのない司法の役割について知ることができました。私は法学部の学生ではないため、講義内容が難解に感じる部分も多々ありましたが、弁護士団が英知を尽くし、国家に立ち向かった姿勢に強い感銘を受けました。この判決は生活保護制度のあり方を問い直すだけでなく、これからの日本がより公正な方向へ進んでいくための足掛かりになると感じました。