
国際関係学部の「国際経営論Ⅰ」(担当:植原 行洋教授)は、「なぜ我々は国際化/グローバル化しなければならないのだろうか」という大きな問いに対して、経営学や経済学などさまざまな角度からアプローチし、その必要性や現在の経済における意義を理解することを目的とした講義です。今回はゲストスピーカーとして元JETRO職員で、国士舘大学 政経学部教授の助川成也氏を迎え、災害時における国際的なサプライチェーンの課題と対応について学びました。
(学生ライター 現代社会学部3年次 町野 航汰)
今回の講義では、日本貿易振興機構(JETRO)の元職員である助川成也教授が出演したNHKの「新プロジェクトX 緊急派遣5千人 日本メーカーの総力戦〜タイ大洪水との闘い〜」の動画視聴から始まりました。学生には助川氏が登壇することは伝えられておらず、動画が終わった瞬間に、先ほどまで画面で見ていた人物が目の前に現れるというサプライズに歓声が上がりました。
助川氏は、2011年にタイ中部で発生し、ロジャナ工業団地など7つの工業団地を飲み込んだ大洪水について、自身がJETROの職員として現地で対応にあたった経験をもとに講義を行いました。
初めにタイの産業構造について説明がありました。タイには日本企業が多く進出しており、集積が進んでいます。洪水によって直接的な被害を受けた工場は全体の15%(当時のアンケート調査)に過ぎませんでしたが、部品供給の停止や物流の混乱により、サプライチェーンが断絶され、広範囲にわたって生産活動が停止しました。このような事例から、サプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。タイでしか生産できない製品も多く、日本での代替生産に関する強い要望を受けて、助川氏は、日本政府に掛け合い、タイ人労働者の日本における一時的就労の許可を求める交渉を行いました。日本政府はタイ人労働者の不法残留などの懸念を示しましたが、「ハードルの高さは知っているが、日系企業の生産維持のため、自分たちが交渉しないと誰がやるのか」という強い使命感のもと、被災した日系企業のサプライチェーン再構築支援に尽力しました。
講義ではさらに、災害時にサプライチェーンを断絶させないための方策についても紹介されました。タイの大洪水の反省から、在タイの日系企業は代替生産体制の構築や、サプライチェーンの可視化を目的としたデータベースの整備を進めている企業もあります。しかし、このような対策を講じても、新型コロナ禍ではサプライチェーンの断絶が再び発生しました。これは災害やパンデミックのような予測困難な事態に対しての事業継続性の難しさを示しています。企業にとって納品義務を果たすことは最も重要なことであり、そのためにはリスク分散に向けた代替生産・供給体制の整備は急務です。しかし、実際にはその整備には時間とコストがかかり、すぐに実現できるものではありません。助川氏の講義は、こうした現実的な課題に対して、どのように向き合い、乗り越えていくべきかを考える貴重な機会となりました。
授業を通じて、災害時に製品の生産を止めないことの難しさ、そしてそのために必要な国際的な連携や制度整備の重要性について考えることができました。企業の努力はもちろん、現地政府や日本政府の支援が不可欠であることも忘れてはなりません。今後30年以内に南海トラフ地震が発生する確率が80%を超えるとされる中、私たちは災害時にどのように生産を維持し、迅速に生活を再建するために何を準備すべきかを真剣に考える必要があると感じました。