経営学部 柴野良美准教授が担当する「経営戦略論(全社戦略)」は、企業全体としてとるべき経営戦略について、さまざまな理論や概念を学ぶとともに、企業の事例や第一線で活躍する実務家の講演を通じて、経営戦略の理解を深める授業です。今回はフェムトパートナーズ株式会社の創業者でありゼネラルパートナーの磯崎 哲也氏をゲストとして迎え、スタートアップの魅力やどのように成長していくべきかについて講演が行われました。
ゲストスピーカーの磯崎 哲也氏
まず、磯崎氏がスタートアップの世界に飛び込むことになるまでの経緯のご紹介がありました。磯崎氏は大学卒業後、発足したばかりの長銀総合研究所に入社し、コンサルタントとして経営戦略や新規事業開発を担当しました。黎明期のインターネット事業に関わった際には、これからの発展の兆しを感じます。そして、ネット証券であるカブドットコム証券の立ち上げに参画したことにより、スタートアップの資金調達の難しさに気付くとともに、その魅力を感じます。その後、独立起業をしてスタートアップの経営者に対する助言業務を行っていましたが、資金調達とアドバイスの両面で彼らを支援したいとの思いから、2012年に「フェムト」での投資事業を開始し、主にスタートアップ企業を対象とした投資(ベンチャーキャピタル)を運営する業務に携わることになります。
続けて、スタートアップや資金調達について説明されました。学生から寄せられた「起業に必要なことは何ですか?」という質問に対して、「起業に必要なものは大きなビジョンである」と回答されました。スタートアップで早期の利益を求めてしまうと、手堅くなり大きな成長をすることができません。シリコンバレーのスタートアップのような、巨大な企業価値にまで成長するような会社は、「少しでも早く黒字を出そう」とは考えずに巨額の赤字(先行投資)で、良い人材の獲得や投資などを積極的に行い、ユーザーを獲得して将来の大きな利益につなげます。そして、そのためにスタートアップにはエクイティ・ファイナンス(株式による資金調達)が向いているとお話しされました。ストック・オプションもその一つです。スタートアップ企業に入社した人が、「今の株価で将来、株式を買う権利」であるストック・オプションを受け取ると、働いている人たちの経営への参画意識が高まり、一体となって企業価値の向上を目指すことができるためです。磯崎氏は、スタートアップの最重要戦略は「企業価値を高めること」であり、そのためには「失敗できる力」が必要であるとお話しされました。企業価値を高めるためには、「確率」ではなく「期待値」を最大化することが大切であり、企業の未来の姿を明確に説得することができれば、資金を集めることができるのです。
最後に、磯崎氏から学生たちに対して、自身が起業するのも、もちろんすばらしいが、起業にかかわる道は それだけではなく、例えば、伸びている会社に飛び込むことで大企業等に勤めるより重要な仕事を早期に任される、といったスタートアップへの関わり方もあるので、チャンスを見つけてほしいというエールが送られました。
講演に続いて質疑応答が行われ、学生からは「スタートアップの概念が変わった」という感想が挙がりました。磯崎氏の講演と回答に学生たちは熱心に聞き入っていました。スタートアップの魅力だけではなく、常に新しいことにチャレンジする気持ちの大切さも感じる講義でした。
講義の様子
講師紹介
磯崎 哲也 氏
フェムトパートナーズ株式会社 ゼネラルパートナー
大学卒業後、長銀総合研究所に入社し、経営コンサルタントやアナリストの経験を経て、カブドットコム証券の立ち上げに参画する。その後、ネットイヤーグループのCFO、カブドットコム証券社外取締役、ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任する。フェムトパートナーズ株式会社を創業し、ゼネラルパートナーとして主にスタートアップ企業に対する投資や助言業務を行う。
著書の『起業のファイナンス』『起業のエクイティ・ファイナンス』はスタートアップ経営者のバイブルとして10万部を超えるベストセラーとなっている。