理学部の専門教育科目「理学英語講義(物理学)」(担当教員:岸本 真 教授)は宇宙物理学・天文学における最先端の研究を、できるだけ平易な英語で解説し議論することを目的とした授業です。他学部の学生も履修可能で、この日は「Finding a black hole(ブラックホールの見つけ方)」というテーマで行われました。理学部の学生と留学生がグループになり、互いに教えあい、協力しながら与えられた問題を解くことで、英語や理学の学びを深めていました。
(学生ライター 理学部2年次 濱口志保)
理学英語講義の受講者は、理学部の3年次生の約20名と、マネジメントなどを専門とする留学生4人です。理学部の学生は理学英語を学びつつ、留学生は理学基礎を学びつつ、両者一緒に現代天文学の最前線を理解するという授業でした。
この日のテーマは「Finding a black hole」で、講義は教員による説明、問題提示、グループでの話し合い、まとめの流れで進みました。
Finding a black hole
始めにブラックホールの説明がありました。星とは、ご存じの通り夜空に点のように光って見える天体のことです。そしてブラックホールとは、重力が強すぎて、宇宙最速の光でさえも逃げ出せない天体であり、一言でいうと「重力によってあらゆるものを吸い込み、何も出てこない穴」のことです。
では、皆さんはブラックホールをどのように探せばよいかイメージできますか?太陽や惑星は視覚的に見分けることができますが、ブラックホールはそうはいきません。ではどうすれば良いのでしょうか。
見極める方法の一つに、星とブラックホールの決定的な違いである「質量と周期的な変動の比較」があります。この違いを利用するために、今回はある連星系「Cyg-X1」に注目しました。理由は、連星系(2つの天体が互いに互いの周りを回っている)にブラックホールが潜んでいるケースが多いためで、「この連星系の一方の天体がブラックホールなのか」を見極めようということです。この連星系のもう一方の星の可視光スペクトルをとると、ある周期、ある速さで軌道運動していることが分かっています。この周期と速さから、相方である見えない天体の質量を求め、ブラックホールか否かを判定します。
「質量」とは、「物体を構成する物質固有の量」のことです。そして、星の進化の終末に、星の中心部にできるいわゆるコンパクト天体のうち、超新星爆発を伴わないで作られる「白色矮星」の質量には限界値があります。これを「チャンドラセカール限界質量」と言い、星はこの質量より大きな質量を保持できません。限界質量を超えると、ブラックホールになります(正確には中性子星かブラックホールのどちらかになります)。質量を計算で求める時は、太陽質量や地球が公転するのに要する時間、太陽と地球の距離、目標天体の回転速度などを用いて目標天体の質量を求めます。
岸本教授から、必要な値を示したうえで質量を求めよという問題が出題されました。まずは個人で考える時間が与えられました。その後、留学生を含めた3つのグループに分かれ、それぞれ自分の求めた値を共有する時間が多く取られました。理学部の学生は問題を解けている人が多く、同じグループにいる留学生に英語で教えていました。このように自ら英語で理学の内容を話すことで自信がつくのだと思います。逆に留学生は、普段学ばない分野を同年代の学生から直接教えてもらうことができるので、より理解が深まります。岸本教授は一人一人の様子を見に行って、英語でアドバイスをしていました。最後に、教授が問題の答えを示したところで講義が終わりました。求めた質量とチャンドラセカール限界質量を比較して「CygX-1」が星なのかブラックホールなのか判定するのは、次回の講義で行われるそうです。
ちなみに「CygX-1」は、はくちょう座X-1と呼ばれるブラックホール候補天体です。この天体は連星系で、一方が青色超巨星という恒星です。ブラックホールと青色超巨星があまりに近いので、超巨星の物質がブラックホールの重力に引かれて流れ込み、降着円盤をつくっています。降着円盤とは、主星にガスが落ち込むときに主星の周りにできるディスクのことです。降着円盤は高温に熱せられてX線を放射しており、「CygX-1」は有名なX線源として知られています。
私は理学部の学生なので、英語を母国語としている学生と直接理学の内容を英語で話すことができる環境が、自分の英語力と理学の学びの双方を引き上げてくれると気づき、将来絶対役に立つ講義だと思いました。以前から、理系こそ英語が必要なのに、理系が英語を学ぶ機会は文系の人より少ない気がしていました。この講義はまさに理系英語を学べる絶好のチャンスなので、3年次で私もぜひ受講してみたいと思いました。