“戦争と日常生活は表裏一体” ウクライナの現状と生活を支える復興ビジネス、日本でのウクライナ産ワインの販売についてお話を聞きました。
6月20日(金)国際関係学部の専門講義科目「国際ビジネス論Ⅰ」(担当:植原行洋教授)の講義において、JETRO 海外展開支援部戦略企画課長の木場亮氏と、株式会社アンナ 代表取締役のヴァシナ アンナ氏をお招きし、日本のビジネスがウクライナ復興に向けてできることについてご講演いただきました。これに先立ち、研究演習Ⅰ・Ⅲにおいてウクライナワインを日本で普及させるためのマーケティングについて学生によるプレゼンテーションと議論を行いました。
(国際関係学部 3年次 石山 日輪、長内 里緒)
「国際ビジネス論Ⅰ」では、初めに木場氏から、ウクライナの現状や戦争が未だに続く中での「復興ビジネス」についてお話しをいただきました。
特に木場氏が、ウクライナには「戦場と市場」が併存していると表現したのが印象的でした。その言葉のとおり、現在、ウクライナ東部では戦争により建物やインフラの激しい破壊が続き、厳しい生活が強いられている一方で、首都キーウや西部では高級スーパーや日本食レストランが通常営業を続けており、比較的安定した日常生活が送れているという二面性があるようです。
そんな中進められている「復興ビジネス」は、インフラ・農業・ヘルスケア(義手義足やリハビリなど)・ITと多岐にわたり、ウクライナ企業だけでなく、日本も含めた世界の企業が取り組みを進めています。
「復興ビジネス」は戦後から始めるイメージがありますが、それでは間に合わない面もあるそうです。メディアの報道などからウクライナは戦時下であるイメージが強い私たちには想像が少し難しい部分もありましたが、実際に戦時下のウクライナを何度も訪問している木場氏からのリアルな現場報告を聞き、世界では “Build Back Better”をキーワードに、ウクライナの経済回復のための取り組みが、様々な形で既に考えられていることを知りました。
次に、ウクライナ産ワインを輸入販売しているアンナ氏から、ご自身の事業を始めるまでの経緯や現在の取り組みについて、お話しを聞きました。
ウクライナ出身のアンナ氏は、現在横浜に拠点を構え、ウクライナ産ワインの販売に日々尽力されています。日本滞在期間は長く、昔は京都に住んでいたこともあるそうで、「日本は第二の故郷です!」ととても明るく話し出してくださいました。
アンナさんがワインの輸入ビジネスを始めたきっかけは、ウクライナで戦争が始まったことがきっかけでした。母国のために出来ることを考える中で「ウクライナと日本の間にワインで橋を架けて、ウクライナのピンチを少しでも救いたい」と思い、大好きなウクライナワインを日本で販売することを決めたそうです。
以前まではウクライナ国内で人気が高かったワインですが、戦争により国内需要は大きく落ち込み、市場で余るようになってしまいました。アンナ氏は、その中でも手作業でクラフトワインを作り続けるこだわりのワイナリーに直接訪れて日本に輸出することを提案しました。
しかし現実は厳しく、ウクライナから日本への輸出や関税のコスト、日本での知名度の低さなど、複数の障壁を乗り越える必要がありました。それでも、母国への貢献を諦めない、アンナ氏のウクライナとウクライナワインに対する熱意に感銘を受けました。
最後に、学生が考えた「ウクライナ復興ビジネス」の中から選ばれた、優秀レポートを3人が発表し、木場氏から評価をいただきました。
1人目は、日本の耐震・省エネ・短工期の建築を活かした、プレハブ建築ビジネス。
2人目は、戦後ウクライナで小麦生産が復活することを見越し、日本メーカーの農機を利用したビジネス。
3人目は、戦争で負傷した方に向けた義手・義足のビジネス。
どれも日本の技術が、戦後のウクライナに直接的に寄り添うことができるビジネスアイデアでした。
木場氏からは、3つのビジネス案全てにおいて、すでに日本企業が進出している一方で、規格の違いや施工の人材確保、他国企業との競争などがあり、そう簡単ではないことをフィードバックいただきました。
今回の講演会を通して「復興ビジネス」とは、ウクライナの復興時だけではなく、復興後にも続く息の長いものであり、ウクライナと日本をさらに深い関係に繋げる要因になることも学びました。日本からは遠いウクライナですが、ビジネスを通して過去・現在・未来も繋がっていることを知り、ウクライナや国際社会に貢献する方法をもっと学んでいきたい、と改めて感じました。そして、一刻も早くウクライナの戦争が終結し、平和な環境において両国間のビジネスが発展することを祈ってやみません。
同日の講演会に先立ち、研究演習Ⅰ・Ⅲ(植原ゼミ)ではウクライナワインの販売方法について研究発表を行いました。
2週間前に、「ウクライナワインを日本でどのように売っていくべきか」という実践的な課題を提示され、今回の取り組みは始まりました。
学生は、3年生と4年生でそれぞれ2グループずつ、計4チームに分かれ、ウクライナワインに関する基礎的な知識をはじめ、日本におけるワイン市場動向や消費者ニーズ、競合商品との比較など、情報収集と整理を行いながら、どのような販売方法がより効果的かを、2週間という短い期間でしたが懸命に模索しました。
この取組を通して知った、ウクライナワインの輸入ビジネスの厳しさは想像を超えるものであり、私の班ではなかなか思うように戦略が立てられず、非常に苦戦しました。収益率のシミュレーションや物流コスト、販売ルートの選定など、複雑な要素が多く、ゼミの授業時間外にも学生が集まって議論を重ねる班も見られました。
発表当日は、それぞれのグループが独自の視点からアプローチを展開し、多様なプロモーション案を提案しました。SNSマーケティングを活用した戦略やイベントの実施、芸術や文化との結びつけなど、各発表には個性が溢れていました。
発表を受け、アンナ氏からは、過去に実際に試みたがうまくいかなかった経験や実行の際の障壁について詳しくお話しいただき、リアルなビジネスの厳しさを感じました。その一方、いくつかのアイデアには「面白い」「実際に試してみたい」といった前向きな評価もいただき、大きな励みとなりました。
木場氏や植原教授からは、プロ視点からの鋭いフィードバックをいただき、共感を重視したマーケティング戦略をビジネスとして成立させるための留意点や可能性について、実務的な学びを得ることができました。
私は、今回のプレゼンテーションを通じて、ビジネスが単に数字や理論だけではなく、人との繋がりや情熱によって支えられていることを実感しました。アンナ氏のウクライナへの強い想いと、日本での挑戦を続ける姿勢から多くのことを学ぶことができた、非常に有意義な機会となりました。
<株式会社アンナのHP>
https://annavinos.co.jp/