経営学部の講義「経営戦略論(全社戦略)」(担当:柴野 良美 准教授)では、経営戦略論の中でも全社戦略(企業全体としてとるべき戦略)について、企業がどのような経営戦略に基づいて活動しているのかを理解することを目的としています。今回は、大手総合商社の𠮷成 雄一郎氏をゲストに迎えた講義を取材しました。
(学生ライター 現代社会学部3年次 町野 航汰)

講義は3部構成で行われました。第1部では𠮷成氏のこれまでのキャリアについて、第2部では総合商社が実際に手掛けているさまざまな分野のビジネスについて紹介され、最後に質疑応答がありました。
𠮷成氏は、理系の大学院を修了後、大手総合商社に入社されました。その後、社内ベンチャーにおいて事業の経営や鉱山資源ビジネスなどに携わってこられました。
シリコンバレーでの勤務経験をもとに、アメリカのスタートアップ投資についても言及され、スタートアップ企業の育成・成長のために、さまざまな立場から支援し、失敗を許容しながら何度も事業を再構築して成長を促す姿勢が紹介されました。𠮷成氏のリアルな実務経験を聞くことで世界をリードする巨大企業が集まるシリコンバレーでは、こうした土壌があるからこそ、イノベーションが生まれるのだと実感しました。
総合商社が手掛ける事業
𠮷成氏は「総合商社は日本の経済を支えている」と解説されました。手がける事業は、食品、エネルギー、化学、自動車、インフラ、金融サービスなど、多岐にわたり、私たちの生活と密接に関わっています。また、総合商社はグローバルなネットワークを保有しています。商社といえば貿易事業を手掛けるというイメージを持つ方が多いかもしれませんが、売り手と買い手が直接取引することが容易になった影響もあり、従来型の事業は年々減少しています。現在は、培ってきたグローバルネットワークを活用し、効率的な流通の構築や新たなビジネスを生み出す事業経営へとシフトしていると説明されました。
質疑応答
質疑応答では、学生から多くの質問が寄せられました。𠮷成氏は一つひとつの質問に真摯にお答えくださいました。一部を抜粋してご紹介します。

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学生のうちにやっておくべきことは何ですか?
学生は、お金はないけれど時間はあります。社会人になるとお金はできますが時間がなくなります。何でもよいので、何かをやり遂げた、何かに打ち込んだという自信を持てる経験をしてほしいと思います。また、将来どのような仕事に就くとしても、日本の国際化は避けられません。時間のある今だからこそ、語学力を身につけてほしいです。
・これまでの事業や企画で印象に残ったこと、また、大切にしていることは何ですか?
印象に残っているのは、若いころに会社の経営を任されたことです。従業員が50人ほどいたのですが、営業から戻ってオフィスに座っている40人を見たとき、「この人たち全員分の給料を稼がなければならない」というプレッシャーを感じました。
大切にしているのは、従業員に気持ちよく働いてもらうためには、ただ優しくするのではなく、ビジョンを示すことです。
- 自分の人生を大きく変えた出来事や決断は何ですか?
振り返ってみると、7年ごとに異動や担当業務が替わって人生が切り替わっているように思います。しかし、その都度、自分から異動を希望したことはありませんでした。自分のやりたいことができるほど、人生は簡単ではありません。「計画された偶然性」という言葉がありますが、社会で成功した人には、好奇心や柔軟性があり、コツコツと努力を続けた人にチャンスが巡ってくるのだと思います。
今回は、総合商社の特色や自身のキャリアについて考える貴重な機会となりました。受講生は熱心に講義に参加しており、質疑応答の時間には多くの手が挙がり、終了後にも、直接質問に行く学生の姿が見られました。「自分に舞い込んだチャンスに果敢に挑戦する人が成功する。失敗はつきものだが、それを恐れず、まずは行動してみよう」――そう考えさせられる講義でした。
講師紹介
𠮷成 雄一郎 氏
大手総合商社 デジタル事業部長
1996年大手総合商社入社後、社内ベンチャーを設立。その後シリコンバレーに赴任し、DXやスタートアップ投資を主導する。デザイン思考のコーチングを60クラス、1800人以上に行ってきた他、大学・大学院でイノベーションやアントレプレナーシップの講義なども行う。