地方自治のさまざまな現場で活躍されている第一線の方々が登壇される法学部専門科目の「地方自治未来論」(担当:山田 啓二 教授)にて、杉本 達治 福井県知事をゲストスピーカーとしてお招きした授業が行われました。昨年3月の北陸新幹線延伸開業で注目度が上昇している福井県の魅力や、知事としての県政運営の方針や取り組みなどついて話されました。
杉本 達治 福井県知事のプロフィール
岐阜県生まれ 1986年自治省入省(現総務省)内閣参事官、福井県副知事などを経て2019年4月より現職2025年5月現在2期目
教壇に立った杉本達治知事は、冒頭、福井県の概要や魅力、近年の動向について話されました。特に北陸新幹線延伸後の福井県の変化について、恐竜博物館をはじめとする観光施設への来場者が大きく伸びていること、生活面では福井県が「全47都道府県幸福度ランキング」で12年連続1位となっていることなどを紹介されました。
その後は本題へ。こうした成果の基盤となっている地方自治、福井県政について、2期目を迎える自らの県政運営の基本原則と具体的な取り組みについて熱く語りました。杉本知事が大切にしてきた県政運営の三本柱、それが①県民主役の県政、②徹底現場主義、③チームふくい、の3つです。「県民主役の県政」とは、行政・民間にかかわらず県民の目線に立つことです。「徹底現場主義」は、現場に立ち、現場を重視すること。杉本知事は「私も現場に立つようにしている。現場にこそ課題があり、そして解決のための多くのヒントが隠れている」と話されていました。そして特に印象的だったのが「チームふくい」という考えです。杉本知事は、政治の本来の姿について、「理念を述べてそれに向かって互いに切磋琢磨するために議論するもの」とし、行政も民間も市民の皆さんも一体となって切磋琢磨して取り組むことが「地域全体の底上げにつながる」という考えは、地方自治ではとても重要な視点だと思いました。こうした原則のもと行われた施策として、知事に就任した1期目から、若手職員と協力して「職員クレド」を作成し、職員の皆さんの「ユーザー目線」の意識を高めてきたほか、官民がより連携しやすくすることで地域や住民サービスの向上を図る「ちょい足し」施策など、ユニークな取り組みで着実な実績をあげられてきたことがよくわかりました。
もう一つ、強調されていたのは、政策展開における「政策デザイン」という考え方でした。新しい状況に対応するうえで「今の制度を踏まえて、どうすれば県民にとって最適なのかという視点で政策をデザインする」という発想です。2019年に就任された杉本知事は、直面したコロナ禍で、デザイン思考を活かした政策展開で情報を一元化し、県民への細やかなフォローを行って被害を最小限に抑えることができたと話し、その経緯などを詳細に説明されました。政治や行政というと難しいイメージを抱きがちですが、今回、杉本知事のお話は、まさに現場視点での取り組みや実績であり、住民生活や地域運営における行政の意義や役割の大きさを実感できる講義でした。今後の学習や研究はもちろん、将来の進路を考えるうえでとても貴重な機会だったと思います。