2025.06.10

高橋研究室の学生らが南部町の世界農業遺産の梅林で生物多様性の調査を開始しました

―大学・地域・自治体が協働し生態系サービスを可視化―

梅は、古くから日本の農業・文化・景観に深く根ざした農作物であり、和歌山県みなべ・田辺地域の「梅システム*」は、2015年に世界農業遺産(GIAHS)として認定されました。この地域では、梅林と薪炭林、畑、ため池、石垣などが連携した伝統的農業が長年にわたって継承されており、多様な生き物と人の暮らしが共生する里山生態系が維持されています。このような梅林に集まる生き物の多様性を調べることは、単に個々の種を記録するだけではなく、農業景観の中で生物がどのように機能的に関わっているかを理解するうえで極めて重要です。たとえば、春に咲く梅の花にはミツバチなどの送粉者が訪れ、果実がなると昆虫類や鳥類が集まります。また、落葉や剪定枝は土壌動物や微生物の生息場所となり、梅林全体が生態系の拠点となっています。これらの生き物が果たす送粉・害虫制御・土壌形成・水質浄化などの「生態系サービス*」は、梅の安定的な生産と質の向上に貢献するとともに、農業と自然環境の持続的な関係を支えています。梅林の中でどのような生態系サービスが働いているのかを可視化することは、農業と生物多様性の両立に向けた実践知の蓄積となります。このような伝統的な農業システムのもとで生物多様性がどのように維持されているのかを明らかにすることは、文化的・生態学的価値の再評価につながり、持続可能な農業や保全戦略のモデルにもなります。
本調査は、本学の生命科学部の高橋研究室の教員と学生らに加え、地元のボランティアや自治体との協働による参加型調査(市民科学)として、2025年5月から毎月開催される予定です。また夏休みや冬休み期間中は地元の小中高校の児童・生徒とも生き物調査のイベントを開催する予定です。

 本調査活動の様子は紀伊日報の6月4日夕刊にも掲載されました。

生態系サービス

自然や生物多様性が人間にもたらす恩恵を指します。これには、食料や水の供給、気候や洪水の調整、土壌の形成や浄化、病害の抑制、花粉媒介などが含まれます。また、自然の景観や癒しといった文化的価値も重要なサービスの一つです。これらのサービスは、私たちの生活や経済活動の基盤であり、持続可能な社会を築くうえで不可欠です。そのため、生態系の保全と適切な管理が強く求められています。

梅システム

和歌山県のみなべ町と田辺市で受け継がれてきた梅(ウメ)を中心とした農業システムです。2015年に世界農業遺産(GIAHS: Globally Important Agricultural Heritage Systems)に認定されています。

5月27日に行った調査メンバー(高橋研究室の学生、南部町職員、梅農家、ボランティアの方たち)
梅林に設置されたミツバチの巣箱と働きバチが梅の受粉をしている

紀伊日報HP

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