特別研究のテーマは『小胞体ジスルフィド還元酵素、ERdj5、翻訳制御の解明』。「難しそうに見えるかもしれませんが、細胞にある小胞体の仕組みの解明です」と大谷は笑顔で話す。
小胞体は直径20㎛ほどのミクロなサイズだが(1㎛は1mmの1000分の1)、実はいま世界中の多くの研究者が研究に取り組んでいる巨大工場のような器官だ。
大谷が所属している研究室は各学生が「小胞体」の機能解明に取り組んでいるが、彼女はその中でも「翻訳制御の仕組み」について研究している。小胞体という器官が担う様々な機能のうち、それほどメジャーではない(とされている)メカニズムの解明だが、少なくともこの分野に限っては、世界でも1人だけ、もしくはわずか数人しか手掛けていない研究だ。
「今まで世界に存在しなかったデータを自分が作り出す『0を1にする』という経験はやはり特別なものだと感じます」。
そんな研究に取り組めているからこそ、大谷は発表や報告には必ずデータや数字など根拠を添える大切さを強く実感しているのだという。
「こういう数字が出たから、こういう結論になります」「このデータに基づいて、こういう研究を進めます」今まで世界にないデータを扱うからこそ、「だと思います」といった曖昧な表現はできない。
世界で誰も手掛けたことがない研究に取り組むワクワク感を感じる一方で、データを取り扱う責任や緻密さに慎重になる自分がいる。「この特別研究に取り組む醍醐味はこんな風に自身の成長を感じながら、生命科学の歴史を更新するチームの一員になれることだと思います」。
※掲載内容は取材当時のものです。