学生時代に育んだ
「人とのつながり」を支えに
─老舗酒蔵を営む卒業生が紡ぐ日本酒文化
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学生広報スタッフが、社会の最前線で活躍されている京都産業大学の卒業生にインタビューするこの企画。今回は、伏見の地で350年以上続く酒蔵を継承する14代目当主であり、株式会社増田德兵衞商店会長を務める増田德兵衞さんにお話を伺いました。学生時代の経験がどのようにお仕事に生かされているのか、そして時代はどのように変化していくのか──。酒造りの伝統を引き継いできた増田会長の、これからの社会に寄せる思いと学生へ向けたメッセージをご紹介します。
取材:学生広報スタッフ 小谷 姫愛さん(文化学部・3年次)
学生時代の思い出を教えてください。
京都産業大学に入学したとき「大学内で一番強いクラブって何やろう」と思い、入ったのが当時西日本大会で優勝を重ねていた馬術部でした。そこで、京都産業大学創設者 荒木 俊馬先生のご子息であり、当時オリンピックにも出場するほどの腕前を持った荒木 雄豪先生と出会い、先生の下で練習に励みました。実家がある伏見区から大学までは遠く、朝4時から始まる練習に行くために、卒業まではずっと大学近くの「柊野別れ」で下宿していました。馬術部の懇親会で遅くまで仲間たちとお酒を飲んだり、朝方によれよれになりながら下宿先に帰って先輩と一緒に風呂に入ったりしたことは良い思い出です。いろいろあって馬術はやめてしまいましたが、その後アメリカンフットボール部に入り、スポーツを通してさまざまな方とつながりを持つことができました。

学生時代の経験が仕事に生かされた場面はありますか。
人とのつながりを通して、利害関係を越えた交友がいかに大事かを学んできました。父が人との縁を重視しており、文人墨客(ぶんじんぼっかく)と呼ばれる人たちとも交流がありました。文化や芸術といった一見商売に関係のないものを大切にしてきたからこそ、うちが残っているのかもしれません。
そうした「共存共栄」という考え方は、酒造りにも通じるものがあります。お酒は発酵によって造られますが、製造工程では、人と違って言葉を発さない微生物と向き合い続けなければなりません。相手をよく観察し、理解しながら良いものを共に生み出していく。その難しさを、微生物から教えてもらったように思います。
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───(小谷さん)京都産業大学は、部活であったり教授の方々であったり、同じ場所に色々な背景を持つ方が集まるワンキャンパス型の大学です。私自身、自分の専門分野以外の方と話をしていると「そういう見方があるのか」と新しい発見をすることがあります。このような経験が視点の広がりにつながっているのだと思いました。

酒造りの伝統を牽引する立場として、日本酒文化の今後についてどのようにお考えですか。
日本の場合は20歳以上でなければまずアルコール類に触れられませんし、なおかつ少子高齢化や健康に対する意識の変化の影響で、人々がお酒と触れる機会はますます減っていくでしょう。私が大学生だった頃は日本酒のメーカーが3,000社以上ありましたが、今は1,000社を下回っています。そういった逆境を生き抜き、次の世代へつなぐために、社会科見学で小学生に日本酒造りの歴史や伝統を学んでもらっています。甘酒の試飲から興味を持ってもらい、大人になったとき「お酒ってこうやって造られていたんだ」と、もう一度感じてもらえたらそれに勝る喜びはありません。日本酒は麹を作らないと出来上がらないし、お米や水も大事です。すなわち全方向を見なければならない商売です。農業はアグリ"カルチャー"というように、文化だと考えています。お酒だけでなく、その周辺文化も知っていただくことで日本酒という文化をさらに広げていけたらという気持ちでいます。
長年続く酒蔵の暖簾を引き継ぎ、今大切にされていることはなんですか。
昔からあるものの中には、必ず見過されているものがあります。新発見と言われるものも実は昔から存在していたものに光が当たっただけだったりするものです。だからこそ、そうした隠れた価値に気付く力が大事です。AIばかりに質問をするのではなく、自分で探し出す力を身に付けたい。例えば、「味」はAIに聞いても、デジタルでいかに細かく数値化しても、実際に舌で感じとる微妙な違いを表現しきれません。日々の食事やお酒を楽しみつつ自分の感覚を磨き、新たな気付きを見つけ続ける人間になりたいです。

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───(小谷さん)私は20歳の誕生日の家族との食事で、初めて日本酒をいただきました。家族から少しもらっただけでしたが、食事と一緒に口に運んだとき「こんな美味しいものがあるんだ」と今まで経験したことのない感覚に感動したことを覚えています。お酒の味だけでなく、そこから広がっていく人とのコミュニケーションもお酒が私たちにもたらしてくれるものだと思いました。
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料理もそうですが、お酒は「何を飲むか」よりも「誰と飲むか」がとても重要で、そこにある会話が大事。平均寿命から計算すると、人が一生にする食事の回数はだいたい23,000回程度。お酒を飲む回数はそれよりも少ないかもしれません。そんなもので人生って終わってしまうので、人との食事の時間は大切にしないといけないという思いを強くしています。日にち計算、大事ですよ。
デジタル社会を生きる現役の学生たちへ、自身のキャリアを形成するためのアドバイスをお願いします。
重要なのはコミュニケーション能力です。AIを使って調べものをするのも良いですが、物怖じせずに知らない人たちと話をして、コミュニケーション能力を高めてください。人とのつながりを、お酒を飲みながら広げてもらえたら、酒造りをしている身としてはとてもうれしいです。学生の頃は全く気にしていませんでしたが、さまざまなバックボーンを持つ人と交流していると、何から学ぶというわけでもなく面白いことが増えていきます。はちゃめちゃで、変なやつほど面白いですからね。まともなやつより変なやつが面白い。極力変人になってください(笑)

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編集後記
今回のインタビューでは、ご自身の経歴や考えについてユーモラスに語ってくださったおかげで、非常に和気あいあいとした雰囲気の中で取材を進めることができました。好奇心を持ってどんな物事にも一度触れてみる。そして、新しいことに気付く。これを繰り返し続けていくことが、より豊かな人生を送るための秘訣である。そんな生きる知恵を学ぶことができた取材でした。