新型コロナのまん延で犯罪は増えた?減った?

新型コロナウイルス(以下では、それによる感染症を含め「新型コロナ」と略称します。)が世界中で猛威をふるっています。生活のスタイルが大きく変わったことは、皆さんが実感していると思います。

では、新型コロナのまん延で犯罪は増えているのでしょうか?それとも減っているのでしょうか?一般の犯罪、家庭内の犯罪、サイバー犯罪に分けて説明します。結論を先に言えば、一般の犯罪は大幅に減少、家庭内の犯罪は変わらず、サイバー犯罪は深刻化しています。

1.一般の犯罪

新型コロナが広がる中で、休業中の店舗に侵入する窃盗事件、感染拡大対策に関連した給付金をだまし取る詐欺事件、「新型コロナに効く」と称するニセ薬を販売する事件などが起きています。高齢者をだます口実に新型コロナ対策を使うもの(例えば、「還付金があるが、新型コロナで窓口が密にならないようにする必要があるので、ATMに行って手続をして欲しい」と誘導するもの)も起きています。

警察やその他の関係機関が新型コロナに関連した犯罪についての注意喚起をしていますから、犯罪が増えているように感じる方もいるかもしれません。しかし、全体としてみれば、新型コロナのまん延の影響で、犯罪は明らかに減っています。

犯罪情勢を測るもっとも一般的な指標は、警察の刑法犯認知件数です(刑法犯とは、刑法に定められた殺人、強盗、傷害、窃盗、詐欺などの犯罪のことで、認知とは、被害者の届出等によって、犯罪が起きたことを警察が知ったことを意味します。)。

刑法犯認知件数は、平成14年をピークに、年々減少を続けてきましたが、令和2年は61万4231件で、前年に比べ17.9%減少し、過去最少(※1)を記録しました。下のグラフは、平成22年から令和2年までの刑法犯認知件数の推移です。令和2年はそれまで以上に減少しています。

※1.「過去」とは?
戦後(第二次世界大戦が終わった後以降)のことで、統計としては、昭和21年以降を意味します。

刑法犯_認知件数推移

10年間の対前年減少率をグラフにすると、次のようになります。令和2年の減少率が突出していることが分かります。これだけ大幅な減少は過去に例がありません。

対前年減少率

ではなぜ大きく減ったのでしょうか。新型コロナの影響で外出する人が減り、犯罪の多数を占める街頭犯罪が大きく減少したためです。
自転車盗、車上ねらい(車に置かれた物を盗む犯罪)、部品ねらい(車につながった物を盗む犯罪)、自動車盗、オートバイ盗、路上強盗、ひったくりといった道路上やその周辺で起きる犯罪、あるいは街頭での強制わいせつ、暴行、傷害といった犯罪は、外出する人が減少すればそれだけ減少します。昨年の4月から12月までの街頭犯罪は、前年の同じ期間に比べ、32.2%も減少しています。

もっとも、長期的な影響は別に考えなければなりません。飲食業や旅行業などで職を失った人、収入が大きく減少した人が多数います。完全失業率は、昨年1月に2.4%だったものが、10月には3.1%に増加しました(今年の7月は2.8%になっています。)。

失業者の増加は、「犯罪をしてでも金が欲しい」という潜在的犯罪者(機会があれば犯罪をしようとする者)を増やすことにつながります。また、社会の安全・安定を支えているのは普通の人たちの社会に対する肯定的な意識ですから、生活の質の低下が人々の意識に与える影響についても注目しておくことが必要だといえるでしょう。

2. 家庭内の犯罪

新型コロナの影響で、外出自粛が続き、家に居続けるストレスが家庭内の弱者に向けられ、配偶者からの暴力事案や児童虐待が増える可能性が強く懸念されていました。実際どうなったのかというと、警察の取り扱う事案に関しては、家庭内の犯罪が新型コロナの影響で増えたとはいえません。

配偶者からの暴力に関して警察が受けた相談件数は、令和2年は8万2,643件で、前年とほとんど同じ(+0.5%)でした。警察が暴行、傷害等で検挙した件数は8,702件で、前年に比べ減少しています(-4.3%)。

配偶者からの暴力相談件数推移

なお、配偶者暴力相談支援センターへの相談は、令和2年度(※2)は13万8053件で、前年度より15.7%増加していますし、昨年4月から始まった「DV相談+(プラス)」(電話・メールでの相談を24時間、チャットでは12時から22時まで、受け付けるものです。)の相談を加えると、前年度の1.6倍に達しています。

それらが犯罪に当たるとは限りません(非身体的暴力のほとんどは犯罪ではありません。)し、女性に対する暴力への社会的な関心の高まりと相談を受ける体制を強化した結果という面がありますが、新型コロナの影響があるかどうかは別にして、引き続き警察も含めた取組みの強化が求められるといえます。

※2. 検挙とは?
警察が捜査をして被疑者を特定し、刑事訴訟法に基づいて検察官に送致することを意味しています。逮捕する場合と、逮捕しないで書類と証拠だけを送る場合とがあります。

児童虐待に関しては、警察が児童相談所に通告した人数は、令和2年に10万6,991人で、前年に比べ8.9%増加しています。児童相談所への通告人数は、これまでも一貫して大きく(10%あるいは20%を超える率で)増加していましたから、昨年特に増加したとはいえませんが、社会的な関心の高まりを背景にした増加が続いているといえます。

警察が事件として検挙した件数は、1,756件で8.2%増となっています。近年の増加傾向(令和元年は対前年比で42.9%増、平成30年は対前年比で21.3%増)を踏まえると、「新型コロナの影響で児童虐待事件が増えた」とはいえないでしょう。

児童虐待通告人員

なお、児童相談所での児童虐待相談対応件数は、令和2年度(※3)は、20万5,029件で、前年度に比べ5.8%増加しています。児童虐待は、潜在化しているものが多く、警察のこれまでの取扱い事案の増加や検挙件数の増加も、実態として事案がそれだけ増加しているというより、社会的な関心の高まりを背景に、表面化するものが増えた結果だといえます。新型コロナの影響があるかどうかは別として、引き続き、関係機関との連携を含めた子どもの安全を確保するための取組みが求められるといえます。

※3. 警察の統計と内閣府・厚生労働省の統計
警察の統計は年(1月から12月まで)ごとですが、配偶者暴力相談支援センターに関する内閣府の統計及び児童相談所に関する厚生労働省の統計は、年度(4月から翌年3月まで)ごとになっています。

3. サイバー犯罪

新型コロナに関連したサイバー犯罪として、マスクや消毒液の販売などの詐欺事件、不正サイトへの誘導、個人情報の不正取得、虚偽情報の流布などが起きています。令和2年のサイバー犯罪の検挙は9,875件で、前年より3.7%増えて過去最多となりました。

サイバー犯罪検挙件数推移 

より重要なのは、新型コロナ防止のための「新しい生活様式」によって、テレワークが広がり、電子決済の利用が進むなど、「みんなが、大事なことを、サイバー空間で行う」ようになったことです。十分なセキュリティが確保されていなかったり、関係者の知識や取組みが十分でなかったりすると、サイバー上の攻撃を受けてしまうことになります。

実際に、テレワーク環境やテレワーク用のソフトウェアのぜい弱性等を狙った攻撃が起きていますし、キャッシュレス決済での不正事案も起きています。悪質なショッピングサイト等の通報件数(※4)も、令和3年上半期は6,535件と、令和元年上半期に比べて8割近くも増加しています。

新型コロナ対策のために、十分な準備がないままに急速にサイバー空間への移行が迫られたことによって、サイバー空間の脅威がより深刻なものになっています。セキュリティが保たれるように、法制度、システム、人々の意識と行動がともに変わっていくことが必要になってきているといえます。

※4. 悪質なショッピングサイト等の通報件数
セーファーインターネット協会からJC3(日本サイバー犯罪対策センター)へ共有された悪質なショッピングサイト等の通報件数で、JC3が公表している数値です。

Youtube ハテナの探求 京都産業大学

田村 正博 教授

社会安全政策、警察行政法


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