18歳成人に迫るリスク-18歳の若者を大人として迎え入れる社会の覚悟と責任

1. 成年年齢が「18歳」に

民法は知らなくても、20歳になれば成年になることは誰でも知っています。成年年齢が20歳と法律的に定められたのは、1876(明治9)年。以来、140年に渡って20歳だった成年年齢が、民法の改正により、2022年4月1日から18歳に引き下げられることになりました。18歳と言えば、まだ高校生。高校生を大人として迎え入れるための準備が、社会に求められています。でも、私には、そのリスクへの危機感が足りないように思うのです。

2. 18歳成年で変わることと変わらないこと

おっと、間違えないで下さい。民法の成年年齢が18歳に引き下げられたからと言って、例えば飲酒や喫煙が18歳から認められるわけではありません。例えば、お酒については、2022年4月1日から「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」に法律の名称も変更されます。20歳になって初めて、お酒やたばこが許されることには変わりはありません。

では、一体何が変わるのでしょうか。

ひとつには、18歳になれば、親の同意がなくても婚姻(結婚)ができることになります。今まで女性は16歳、男性が18歳とされていた婚姻ができる年齢がともに18歳となるとともに、20歳までは必要だった結婚への親の同意が不要になります。婚姻届を出すために成人の証人が二人以上必要ですが、それだけが条件になります。高校3年生でも、自分たちだけの意思で結婚ができるのです。 結婚には「愛」が不可欠ですが、「お互いを尊重する気持ち」や「お金」だって大切なことを高校3年生までには分かってもらわねばなりません。その他、性別変更の審判も18歳からできることになります。これも大切です。

3.悪質業者に18歳が狙われる

一番、影響が大きな変化が、18歳になれば親の同意を得なくても、自由に契約を締結できるようになることです。民法では、未成年者取消権といいますが、未成年者が契約を締結しても、法定代理人(多くの場合に親です)の同意がないなら、例えばお小遣いや仕送りでの契約を除いて、取り消すことができます。お小遣いが例外なのがいいでしょ。小学生と18歳の大学生の小遣いは額も内容も違います。私たちは、こうして、年齢に応じてだんだんとお金の使い方を勉強してきたのです。

ところで、未成年者取消権は、若者の悪質な事業者による契約被害の防止と救済とに大きな役割を果たしてきました。例えば、最近、若者に流行の金融商品や暗号資産などへ投資をする「モノなしマルチ」の被害。2019年の6,000件あまりの相談の約48%を20歳代が占めています。20歳未満はわずか。

悪質な事業者からすれば、契約を取り消されるかもしれない未成年者はだましがいがないのです。狙われるのは、20歳になったばかりの若者。マルチに加入するための50万円程度の当初資金は、多くの場合に消費者金融で借り入れることになります。それも未成年者では無理です。親の同意がなければ借金をすることもできないからです。

こうして、未成年者は、親の同意という仕組みによって、強く保護されてきました。考えて見れば、未成年者が悪質商法で多額の借金を抱えることは、本人にとってはもちろん、その若者を迎え入れる社会としても決していいことではありません。将来の市民社会を担うのは若者です。だから、法は未成年者に軽率さがあったとしても、原則として未成年者を保護しているのです。

4.18歳を大人として迎え入れる社会の覚悟と責任

2022年4月1日からは、間違いなく、18歳が悪質事業者のターゲットになります。18歳になれば、例えば月間利用限度額30万円を上限とするクレジットカードを持てたり、50万円を融資の上限とする借金を消費者金融からしたりすることもできるようになります。20歳になったばかりの女性の相談には、エステや美容医療などが目立ちます。これらの契約の締結には、カードや借金が使われます。

若者に、数十万円という代金を現金で支払う余裕は、普通はありません。キャシュレス決済が言われる今、カードを身の丈に応じて計画的に利用することには意味があるのかもしれません。でも、そのためには「計画的に利用」することができなければなりません。リスクに対応する生きるための知識が不可欠なのです。

若者には生活のための経験が不足しています。SNSやネットで提供される情報に流されてしまう傾向があります。2019年に男性の若者の相談で目立ったのは「脱毛剤」の契約。これもSNSを通して、その必要性がまことしやかに伝えられたことが影響しています。また、若者は、実際には心配するまでもない、学歴や就職、容姿、体型などへの不安を抱えています。こうした点に悪質事業者がつけ込んできます。それに負けない若者への消費者教育や法制度の整備を急がなくてはいけません。その努力はなされています。しかし、それは遅々としていて、いまだ具体的で確実な成果にまでは至っていません。

各地の自治体で「成人式」を20歳でするか、18歳でするかが議論されています。どうやら20歳での実施がほとんどのようです。なるほど、18歳で飲酒ができないことを考えると、その気持ちは分かります。でも、18歳で親から独立し、結婚も契約も自由にできることになります。そうした18歳を「大人」の仲間として迎え入れるための覚悟と責任とが、すでに大人になった私たちに問われています。

 

坂東 俊矢 教授

民法、消費者法


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