変革期に晒される学生たちへ

2026.04.23

変革期に晒される学生たちへ

今年もまた新しい学生達を迎え、授業が始まった.学生達と話していて気づいたことがある.国際関係について語る時の学生達の目力というか、眼差しの真剣さである.新入生はいつもfreshで真剣ではあるが、国際関係学の話を始めると「難しそう」と距離を感じているように見えることが多かった.今年はその「距離」があまり感じられない.イラン情勢のニュースなど毎日のように国際関係に関する話題が取り上げられ、日々の生活でも国際関係を意識することが多いことが理由かもしれない.就活中の学生からは、国際物流を扱う会社の面接で、今後のホルムズ海峡の行方やトランプ政権に関して意見を交わしてきたという話を聞いたりもする.学生の日常生活と「国際関係」の関わりが日々色濃くなってきたとことを喜ぶべきか迷うが、彼らが真剣さを持って「自分事」として国際関係のIssuesに関して議論してくれることは教える身として非常に喜ばしい.

国際情勢への不安

ただ同時に「世の中はどうなってしまうのだろう」と不安に感じている学生も増えているようにも感じる.日々変化していく中東情勢が、ガソリンの価格変動・物価高・企業の生産ラインストップなど生活にも直結していることを日々感じているのだろう.アメリカでの選抜徴兵登録制度への登録は以前自ら登録する制度であったが、最近男性は自動登録されることになったようだ.そんなニュースについて授業で発表し「日本でも徴兵制が採用されたらどうしますか」と議論する学生達には、世界情勢に生じている不確実性への不安があるのかもしれない.

不確実性とUltimatum

おそらく現在の世界情勢の不確実性の要因の一部として、トランプ大統領の言動が挙げられるだろう.先日同僚のノハラ先生(フランス出身)がフランスのLe Monde紙のニュースを紹介してくれた.トランプ大統領が使う交渉術の一つである「Ultimatum」 に着目したものだ.わざと極端な最後通蝶を突きつけ、相手を翻弄し合意を取り付けるやり方である.今回のイラン情勢でも、トランプ氏はイランに対して「Stone age(石器時代)」に戻す規模の攻撃を通告し、その後停戦へ向けた交渉のテーブルにつくことを合意させた.わざと予測不能な言動を取るMadman theoryを採用しているであろうトランプ大統領のコミュニケーション戦略なのだろう.しかし、Le Monde紙では、この不確実性によって信頼関係の形成が難しくなっていることを指摘している.

変革期を乗り切るコミュニケーション術

私のアメリカ大学院時代の師であるDouglas MaynardはBad news, good newsという著書の中で、人々は常にgestalt coherence(ゲシュタルト的統合性)を保つ方向に志向することを示している.Bad newsは当たり前の現実を揺るがし、noetic crisis(認知的危機)を引き起こす.そして人々はそれを語り合う中で、そのニュースによって生じた認識の綻びを修正するプロセスを経る.例えば悪いことがあっても、そのbright side(良い側面)について語ることで話題を終了させたりする.
News valence (ニュースの価値)は固有のものでなく、その場その時の人々の関わりの中でvalenceが決まっていく.不安定な情勢の中で日々報道されるニュースや私たちそれぞれが語るニュースは、それ自体に良い・悪いという意味があるわけではない.人々の間でどう解釈され、意味付けされていくのか.そのプロセスに意味がある.
今まさにこの不確実性を伴う学生達に伝えたいことがある.国際関係学は、多角的な視点を養うことを一つのゴールとしている.まず新しい情報(ニュース)をその情報がどのアングル・角度から記述されたものなのか検証してみてほしい.そして自分がそのニュースをどう捉えるのか、自分の視点はなんなのか考えてみてほしい.さらに大いにそのニュースを他者と語る機会を持ってほしい.相手の視点や違った意見を受け止めた上で、そのsynthesis(合成)を図ってみるのも面白い.そんな中で、自分の不安に向き合い、周りの人との関係性を深めていってほしい.それこそ「今だからこそできる」変革期を楽しむコミュニケーション術なのかもしれない.

Donald Trump et l'obsession des ultimatums : les clés pour comprendre. (2026, April 7). Le Monde. https://www.lemonde.fr/les-decodeurs/article/2026/04/07/donald-trump-et-l-obsession-des-ultimatums-les-cles-pour-comprendre_6677934_4355770.html

Maynard, D. W. (2003). Bad news, good news: Conversational order in everyday talk and clinical settings. University of Chicago Press.

川島 理恵 教授
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異文化コミュニケーション、医療社会学、会話分析