知能的機械労働の台頭と人間社会の今後― 生成AI時代の生と民主制

2026.04.10

高所得圏におけるミドル層の苦境

近代社会が平等や自由を重視し、民主主義を基軸として発展してきた背景には、社会的に安定した中間層の厚みが存在していたとみるのが一般的です。しかし近年、特に高所得国においては、いわゆる「ミドル層」が次第に細りつつあります。物価上昇率が賃金上昇率を上回っていること、ルーチン作業の機械化が進んでいること、熾烈なグローバル競争のなかで製造業の収益率が低下していることなど、複数の要因があります。加えて、雇用の大半を占めるサービス産業では、生産性の向上が難しい、という点も重要です。全体としてみると、戦後のいわゆる「黄金期」と比べ、近年の経済成長率はかなり低い水準で推移しています。こうした状況のもとで中間層の不安定化が進み、政治的な変動を引き起こしている主因となっています※1

生成AI投資ブーム

他方で、資本が集中的に流入している盛況な分野もあります。いうまでもなく、生成AI産業です。4月1日付の『ニューヨーク・タイムズ』によれば※2、生成AI企業への投資額は2025年通年では4,250億ドルに達し、2024年比で約3割増となりました。また、2026年1〜3月だけで2,970億ドルの投資を集めており、このペースが続けば、今年の年間投資額は2025年の約3倍に膨らむ見通しです。
これほどまでに投資が集中しているのは、生成AI分野が極めて高い成長可能性を有していると見なされているためです。従来、機械技術は主として肉体労働の代替にとどまっていました。しかし、生成AIが飛躍的に発展したことで、知的労働も代替の対象となりつつあります。この技術を活用すれば、企業は労働力を大幅に削減し、コストを抑制できます※3。さらに、最も効率的な業務遂行システムを先に確立した企業は、世界市場で支配的地位を獲得する可能性があります。こうした莫大な利益の見込みが、投資の集中を招いています。

ホワイトカラー的ルーチン業務の終焉?

戦後のミドル層は広義の「知的労働」に従事する傾向にありました。しかしながら、AnthropicのD.アモデイ※4は、生成AIの導入が労働市場の大幅な再編につながると予測しています。具体的には、新卒レベルのホワイトカラー職の50〜90%が、今後1〜5年で消失する可能性があると彼は考えています。もっとも、AI企業の経営者としての立場上、アモデイの見通しはやや強気に見積もられている可能性は高い。ただ、仮にその半分程度であっても、このような予測が現実となれば、中流層の将来は一層不透明になります。

不労所得時代の到来?

雇用が大幅に減ることは所得の減少を意味しますので、多くの人々が困窮するかもしれません。こうした課題に対しE.マスクが提唱し※5、OpenAIのS.アルトマンらが試験的に検討※6してきたようなUniversal Basic Income(UBI:すべての人に無条件で一定の所得を給付する制度)の導入、あるいはそれに類する所得再分配政策の必要性が今以上に認識されるようになりそうです。

今後の世界社会を構想する

以上を踏まえると、私たちは知的労働の終焉や、普遍的所得保障制度の導入が現実のものとなり得る大転換期を生きていると言えるでしょう。来るべき社会の制度設計については、早急な議論が求められていますし、様々な制度の改革も急務です。
国内格差や国際格差への対応、そして何よりも、独占的なAI企業の財力や権力をいかに民主的に統制するかという、極めて重大な問題に直面しているわけでもあります。
さらに、この急速な変化のなかで、教育のあり方も再考を迫られています。経済的リターンを重視する教育観から、人権や倫理を基軸とし、人間としての判断力を涵養する教育観へと転換していくことが、今後ますます重要になるといいでしょう。


  1. A.ベナナフ, 『オートメーションと労働の未来』Zブックス2020/2022;2025年にNew Left Review誌で"Beyond capitalism"(1,2)も掲載している.
  2. https://www.nytimes.com/2026/04/01/technology/ai-companies-fund-raising-records.html
  3. https://www.citriniresearch.com/p/2028gic ; https://www.deel.com/the-role-of-ai-in-the-global-workforce/
  4. https://www.darioamodei.com/essay/the-adolescence-of-technology
  5. https://x.com/elonmusk/status/1959723029531181380
  6. https://www.openresearchlab.org/studies/unconditional-cash-study/study 

マコーマック ノア 教授
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歴史社会学、比較文化論