ガザ住民追放騒動—地域的波紋について考える 2025.02.19
トランプ提案と国際的反応
2月5日、トランプ大統領が、パレスチナのガザ地区を長期的に所有し「中東のリビエラのように」再建するとしたうえで住民を別の場所に再定住させると発言した。この発言が訪米中のイスラエルのネタニヤフ首相との会談の直後に公表されたこと自体、考察すべき点があるが、本稿ではこれに対する国際的反響に注目したい。まず、国連のグテーレス事務総長は「あらゆる形態の民族浄化を避けることが極めて重要だ」と述べ強制移住を民族浄化と同一視し、強い反対の意向を示している。また、フランスやイギリスの首脳もパレスチナ人の権利や国際法違反の観点からトランプ発言を批判した。
中東での反応
現地中東では、当然のことながらパレスチナ自治政府のアッバース議長はトランプ提案を「重大な国際法違反」と非難しているが、注目すべきは米国と友好的な関係にあるサウジアラビアやエジプトやヨルダンの指導者からの批判的発言が見られたことである。とくに、パレスチナ系住民が国民の半数以上を占めるヨルダンが強くアメリカを非難する背景には、国内のパレスチナ人の動向だけでなく、形骸化したとはいえパレスチナ人に対する大衆間での支持の感情が見られることも影響している。指導者としては、日々、メディアやSNSを通して伝えられるガザの悲惨な状況が、眠りかけていた大衆感情を刺激していることを憂慮する。それを無視することが自らの立場を危うくするとの指導者の判断につながっているのではないか。ヨルダン政府は、イスラエル右派が占領地の脱パレスチナ化を推進するためにヨルダンをパレスチナの「代替国家」にしようとする動きを強く警戒してきた。トランプ提案はまさにガザ住民をヨルダンに追放することによって、この国をパレスチナ人の受け皿化することを後押しすることにもつながるものであり、その先には西岸の脱パレスチナ化(パレスチナ人追放)の危険性が見えてくる。
懸念される変化
2020年のアブラハム合意以降のイスラエルを軸にした中東の再編成に自信を深めたトランプ政権による100年にも及ぶ係争問題への介入、しかも明らかに敵対する一方に加担する形での介入は、二国家解決案の挫折を招くだけでなく、近年、敵対するイラン・サウジアラビア関係調停で名を馳せた中国の動向とも相まって、中東における現代の新たな「グレートゲーム」を生み出す危険性をはらんでいる。
