米露首脳の思惑とウクライナ戦争の行方 2025.02.05
出口の見えないウクライナ戦争
今年2月24日でウクライナ戦争が開始されてから丸三年となる。この間、いくつもの国のリーダーたちが停戦のための仲介役を買って出たが、いずれも不首尾に終わっている。こうなるといよいよ当事国であるロシアと新政権を発足させた米国のトップ会談しか策はなさそうな気もしてくる。両者ともに対話に意欲を示してはいるが、果たして近々停戦に向けて前進は見られるのだろうか? もう一方の当事国であるウクライナのゼレンスキー政権の思惑も考えに入れる必要はあるが(自国の運命を頭越しに決められてしまうことは絶対に受け入れられないはずだ)、とりあえずここでは、第一に米露首脳がどの程度本気で停戦を望んでいるのか、第二にいかなる条件であれば停戦の実現が可能と考えているのかを見極めることが重要だろう。
米国のトランプ大統領の思惑は?
トランプ氏は大統領選挙キャンペーン中、自分が大統領になれば24時間以内にウクライナ戦争を終結させると言っていたが、これは彼一流の大言壮語で、額面通りに受け取ることはできなかった。ところが今年1月7日の記者会見では、「(大統領就任から)6カ月で、できればそれよりずっと前に終わらせたい」という表現に変えたのである(『日経新聞』2025年1月9日)。ウクライナ問題に対し、より現実的になったと考えられ、それだけ真剣味が増したと受け止めることができるだろう。
1月20日の大統領就任演説では、ウクライナ戦争への言及はなかったものの、「政府は外国の国境を守るために際限なく資金を投じながら、米国の国境とさらに重要な自国民を守ろうとしなかった」という一節があった。これは意味深長である。「外国の国境を守るため」という個所は、バイデン前政権によるウクライナへのふんだんな軍事支援を指していると読めるからである。つまり、その政策を転換させるとの意思表示と解釈できる。実際、トランプ氏は大統領就任当日、対外援助プログラムを90日間停止する大統領に署名したが、これにはウクライナへの人道支援も含まれる。
就任翌日の21日、トランプ大統領はホワイトハウスで記者会見し、ロシアのプーチン大統領と「非常に近い内に話すことになっている」と述べた(『朝日新聞』2025年1月23日)。さらに翌22日には、SNSへの投稿のなかで、プーチン大統領が停戦の取引に応じなければ、高い関税や追加制裁という策を講じるだろうと圧力をかけつつ、取引に応じるならば「経済が破綻しているロシアとプーチン大統領に大いに便宜を図るつもりだ」とも語って、硬軟織り交ぜてのメッセージを送ったのである(『朝日新聞』2025年1月24日)。
プーチン大統領の思惑はどうか?
プーチン氏はトランプ大統領就任式当日の1月20日に安全保障会議を開き、その席から「大統領就任を祝福する」とのメッセージを発し、トランプ氏がロシアとの直接対話に積極的であることを評価した。そして「危機の根本原因を取り除くことが重要だ」と述べ、「短期的な停戦ではなく、長期的な平和が目標だ」とのビジョンを示した(『讀賣新聞』2025年1月21日その他)。
トランプ大統領となら実のある交渉ができるとのプーチン大統領の期待感は、1月24日の国営テレビとのインタビューで一層明確に表明された。そのなかでプーチン氏は、2020年の米国大統領選で「(バイデン氏)に勝利が盗まれなかったら、ウクライナ危機は起こらなかった」と語った。そしてバイデン前政権は「ロシアとの接触を拒否した」が、トランプ氏は「常にビジネスライクで信頼関係を築いてきた」と論じたのである。前回の大統領選でバイデン氏に「勝利が盗まれた」とはトランプ氏が口癖のように言ってきたことであったが、プーチン大統領はそれに同調する姿勢を示し、あたかもウクライナ戦争はバイデン大統領のせいで起こったのだととれるような発言をしたのであった(『讀賣新聞』2025年1月26日)。
そしてこうした言動自体が、トランプ氏の主張を追認するものだったのである。トランプ氏は、たとえば2024年6月27日の大統領選討論会で、もし自分が大統領であればロシアによるウクライナ侵攻やハマスによるイスラエル攻撃は起こらなかったと主張していたのである(「ロイター」2024年6月28日配信)。
トランプ大統領とプーチン大統領の妥結点は?
こうしてみるとトランプ大統領とプーチン大統領は馬が合うというべきか、不思議と言い分が一致しているように見える。現にトランプ氏自身、かねがねプーチン大統領とは良好な関係にあると公言していたが、最近出されたドイツのメルケル前首相の『回顧録』でも「トランプ氏はプーチン氏に魅了されていた」との記述がある(『朝日新聞』2024年11月27日)。ウクライナやNATO諸国のリーダーたちは、米露のトップが自分たちの頭越しで物事を決めてしまうことに大きな懸念を抱いているのではないか。
では、ウクライナ戦争の行方はどうなるのか?出口は見いだせるのだろうか?プーチン政権の立場はほぼ一貫している。停戦交渉の前提として、ロシアが占拠しているウクライナ東・南部4州からウクライナ軍が撤退すること、そしてウクライナのNATO加盟をきっぱり否定することである。さらにロシア側は、戒厳令の延長を理由にゼレンスキー氏が大統領選挙を行わず権力の座にいることを批判し、同氏が交渉相手として正当性を欠くとの問題を提起している(「JIJI.COM」2024年5月21日配信)。
これに対し、トランプ氏の和平案はまだ明らかではないが、昨年来、側近たちの間ではウクライナ領のロシアへの一部割譲案や今後少なくとも20年はウクライナのNATO加盟を認めないといった案が出されている模様である。これはロシア側の要求とかなり重なっているといえるだろう(「讀賣新聞オンライン」2024年11月9日)。
さらに2月1日にロイターが報じたところによれば、トランプ政権のもとでウクライナ・ロシア問題を担当している特使のキース・ケロッグ氏は、まずウクライナで大統領選挙を実施し、その勝者が停戦合意交渉の責任者になるべきだとする考えを述べたとのことである。この点もロシア側の言い分とかなり近いといえよう。
あえて深読みをすれば、米露首脳は徹底抗戦を唱えてきたゼレンスキー大統領を蚊帳の外に置く形で、すなわち「ポスト・ゼレンスキー政権」を見据えての停戦合意を模索しているようにも思われるのである。
