「地球沸騰化時代」の到来 2023.08.02

世界各地で猛烈な熱波が続き、最高気温を更新している。国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した(原文:The era of global warming has ended; the era of global boiling has arrived)」と警告するなど、8月も記録的な猛暑となる見込みだ。

今回のニュース解説では、地球沸騰化時代における最悪の事態を回避するためには、我々にはどのくらいの時間が残されていて、何をすべきなのか、考えてみたい。

1.5℃目標の重要性

地球温暖化問題は、気候危機(climate crisis)と表現されることが多くなった。欧州で続く熱波、各地で頻発する豪雨による被害など、異常気象が頻繁に発生し、我々の生活に甚大な被害を及ぼしていることがその理由だ。2021年には国連のIPCCが「地球温暖化の原因は人間活動によるもの」と断定したことで、国際社会の対応に一層の注目が集まっている。

地球沸騰化時代における最悪の事態を回避するためには、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑えなくてはならない。それが一つの臨界点となるからだ。これを超えると、我々が現在経験している豪雨による降水量や猛暑の頻度が劇的に増加するなど、人間や生態系が被る気候変動の影響が遥かに過酷なものとなることが予測されている。

しかし、現行の対策のままでは2027年には1.5℃を超えてしまう、という報告もあるばかりか、21世紀末までには約2.8℃も気温上昇してしまうという指摘もある*。つまり、国際社会は温室効果ガスの排出を迅速に、大量に減らさなければ、気温上昇を1.5℃に抑えることはできない状況に置かれているのである。

我々に残された予算

地球が許容できる二酸化炭素の累計排出量には限りがある。つまり、1.5℃に達するまでにあとどのくらい二酸化炭素を排出してもよいか、という上限が存在する。これを「炭素予算(カーボンバジェット)」と呼ぶ。IPCC第6次報告書によれば、現時点で産業革命前に比べてすでに1.1℃上昇している。つまり、残りの炭素予算は極めて少ないのである。世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑えるためには、世界全体の二酸化炭素の排出量を2030年には2019年比で48%削減し、50年代はじめには純排出量をゼロにしなくてはならない。このためには、新型コロナウイルスの影響で経済が停滞した2020年の温室効果ガス排出量と同程度のペースで削減が必要だ**。現在のペースでは、1.5℃目標に残された炭素予算をほぼ使い切る状況なのは言うまでもない。

では何をすべきなのか

その答えは「デカップリング(切り離し)」だ、と主張する人は多いだろう。これまでは、経済成長すればするほど二酸化炭素排出量が増加する、というようにGDPと二酸化炭素排出量には強い正の相関が見られるとされてきた。デカップリングとは、この2つを「切り離して」、GDPが増加しても、それに伴う二酸化炭素排出量は増加させない、というものである。この良い取り組みとして、再生可能エネルギーや電気・水素自動車の普及をあげることができる。今後、経済成長と環境保全の両立を示す指標として、「炭素生産性」や「グリーンGDP」といった考え方がより一層重要性になるだろう。

一方で、「永遠の経済成長は不可能ではないか」と考える人もいるかもしれない。いくら製品1つあたりのエネルギー効率が改善したとしても、その生産量が急激に増えてしまえば、結局は地球への負荷がかかり続け、いつかは炭素予算を超えてしまうのではないか、という疑問がつきまとうからだ。

人新世(Anthropocene)***と呼ばれる時代に生きる我々は、いかに現在及び将来の世代の人類の繁栄が依存している「地球の生命維持システムを保護」しつつ、現在の世代の欲求を満足させるような発展、つまり「持続可能な発展」(あえてここでは持続可能な開発、とは表現しない)を目指せば良いのだろうか。その答えは簡単には出ないだろうが、自分が納得できる答えは出せるかもしれない。このトピックに関心を持った方は、ぜひ本学で「国際社会と環境I, II」を履修し、同じ問題意識をもった仲間たちと大いに議論してほしい。

* 詳しく知りたい方はWMOの報告書および、UNEPの報告書を参考されたい。
** 詳しくは参考文献の立命館大学・林先生の記事を読まれたい。
*** 地質時代区分で最も新しい時代とされている「完新世(Holocene)」(最終氷河期が終わり、森林が増加し、世界各地で人類が文明を築き始めて現在に至る時代)に続く、人類の活動が地球の生態系に重大な影響を与えている時代として特徴づけられた想定上の地質時代。


参考文献

  • 井口正彦「地球環境:環境を「維持」するのも「壊す」のも私たち次第」草野大希・小川 裕子・藤田泰昌(編)「国際関係入門」ミネルヴァ出版,2023年。
  • 林大祐「脱炭素の現状と課題(2) 「炭素予算」は残りわずか」日経新聞2023年5月4日。
  • 世界気象機関(WMO)WMO Global Annual to Decadal Climate Update (Target years: 2023-2027). Available online.
  • 国連環境機関(UNEP)Emission Gap report 2022. Available online.
  • IPCC第6次報告書. Available online.
  • Griggs et al. 2013. ‘Sustainable Development Goals for People and Planet.’ Nature, 495, 21.
 

井口 正彦 准教授

グローバル・ガバナンス論

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