ニュースを面白くする視点とは? 2022.05.31

「国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が報告書を発表し、それによると、地球の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える目標を達成するには、世界の温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までにはピークアウトさせる必要があると指摘した」、「ドイツで開催されたG7の気候・エネルギー環境相会合において、電力部門の大部分を2035年までに脱炭素化するという目標が共同声明に盛り込まれた」。

上記は、私の専門である国際環境政治学に関するホットなニュースである。この記事を読んでいる高校生の皆さんは、これらのニュースを見て興味や関心が掻き立てられるだろうか。世界の再生可能エネルギーの普及率や、電力部門における温室効果ガス排出量の経緯を自主的に調べようと思うだろうか。そもそも、なぜ電力部門なのか、疑問に思う人はいるだろうか。もしかしたら「世界のリーダーが頑張って地球環境を改善しようとしているのだな」という感想で終わってしまってはいないだろうか。

実は最近、高校生を対象に「なぜ国際関係の学びが重要なのか」というトピックで話をさせて頂く機会が増えた。その中で、必ず「国際社会で起きていることは他人事ではなく、自分ごと」というメッセージを伝えるようにしている。この視点が身につくだけで国際関係に関するニュースが何倍も面白くなる。知らないことを、もっと知りたいと思えるようになる。むしろ知らないことがあることが気持ち悪く感じるかもしれない。

国際問題を「遠い国で起きている他人事」と捉えるのではなく、「自分ごと」として捉えるためには、まずは国際社会で起きていることが、どのように自分達の生活に影響を及ぼしているのかを考えると良い。例えば、海洋プラスチック問題を例にとると分かりやすい。海に流出したプラスチックの破片が半永久的に海に漂い続け、その破片に付着した有害物質が食物連鎖を通じて人体に蓄積されることが懸念されている。しかし、そのプラスチックの元をたどれば、私達の生活から排出されるプラスチックごみに行き着くのである。

関心を持ってニュースを調べる癖がついたら、今度は違う角度からその問題を考察してみて欲しい。例えば、安全保障問題を経済の視点から見てみる、経済を国際法の観点から見てみる、といった具合だ。これはなぜなら、どの国際問題をとっても他の問題と関係しているからである。環境問題も一緒である。環境問題は、環境問題だけを見ていても解決しない。なぜなら、環境問題と経済成長や開発は切っても切り離せないからである。いかに経済成長を持続しながらも環境保護を両立していけるのか、その具体的な取り組みはどのようなものがあるのか、その過程で誰ひとり取り残さず、皆が公平で公正な社会を構築するにはどうしたら良いのか。

大学での学びの本質は、自分が興味や疑問を持ったことについて、文系・理系の枠を超えて多様な分野の学びを深めることである。国際関係の学びに興味がある方は、様々な国際問題が自分の生活にどのように関係しているのか、まずは興味を持ったニュースから考えてほしい。

 

井口 正彦 准教授

グローバル・ガバナンス論

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