社会安全・警察学研究所 11月研究会(RISTEXプロジェクト関連)

本研究所は、RISTEX・戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)のプロジェクトで、親密空間における警察等の介入や他機関連携の在り方について研究しているが、これらの問題は、そもそもどこからが教師による体罰として犯罪になるか、両親による子ども虐待になるかという問題にも密接に関連している。どこまでが教育上の措置として許され、どこからが犯罪になるか、子ども虐待になるのかということによって介入の仕方も変わってくるからである。
それゆえ、教師や親の懲戒が許されるのか、許されるとしたらどこまでなのかということを議論しておくことが規範的な研究として重要である。ドイツでは、1977年にハイケ・ユングがその教授資格請求論文で「教師の懲戒権」について研究して以降、判例・学説において一定の議論の集積がある。
しかし、これまでわが国では両親や教師の懲戒権についての本格的な研究がなされてきているとはいえない。そこで、本研究所では、平成28年11月24日に、ベーゼ教授を招聘し、「両親や教師が、正当化事由としての懲戒権を持つのか?」というテーマでご講演いただいた。
ベーゼ教授は、この問題をめぐるドイツでの立法の状況、判例および学説を丹念に整理・検討した上で、教師は学校法に基づき、両親は憲法上の監護権に基づき、それぞれ教育上の措置をする権限はあるが、いずれも懲戒権は持たず、それゆえ子どもに対する身体的な懲戒は身体傷害罪(わが国でいうところの暴行罪や傷害罪)として可罰的であると結論づけられた。
当日は、警察、児童相談所、子ども相談センター、少年鑑別所などの各方面の実務家の方々や刑事法や家族法の研究者の方々にもご参加いただき、参加者とベーゼ教授の間で質疑応答がなされた。
質疑応答では、監禁を正当化しうる「教育上の措置」が、暴行を正当化できないとする理由は何かという質問に対して、刑罰においても自由刑は認められても、身体刑は侮辱的なものとして認められていないことが理由として挙げられるといったやり取り等がなされ、大変興味深い内容となった。

先生の紹介

マルティン・ベーゼ先生は、1996年に「EU法における刑罰と制裁」というテーマで法学博士を取得(ゲッティンゲン大学)、2003年に「経済的観点と刑事訴追」というテーマで教授資格請求論文を提出(ドレスデン大学)、2004年より、ボン大学法学部の刑法、刑事訴訟法、国際刑法、EU刑法の教授として、刑法、刑事訴訟法、経済刑法の幅広い分野で著書・論文など多数の業績を示されている。
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