2025.07.22

講談師、玉田玉秀斎さんが誘う歴史物語~上方講談で学ぶ、江戸の経済~

上方講談師 四代目 玉田玉秀斎(たまだ ぎょくしゅうさい)氏

経済学部の専門教育科目「日本経済史A」(担当:井奥 成彦非常勤講師)では、日本経済の源流である“江戸時代”にスポットを当て、日本経済のこれまでの歩みと、これからの在り方について考え学びます。今回の授業では、上方講談師・四代目 玉田玉秀斎氏をお迎えし、「おぼろの便り」を披露していただきました。この作品は過去の授業で取り上げられた「北前船」とも深く関わる内容であり、江戸の経済や流通の仕組みを、物語を通して学ぶ貴重な機会となりました。

(学生ライター 法学部 2年次 近藤 桃加)


「おぼろの便り」のあらすじ
江戸時代の終わりごろ、大坂天満に「カネキ屋」という昆布屋がありました。ここのおぼろ昆布は日本一と謳われるほどの名店です。おぼろ昆布は製造が難しく高級品とされていました。ある日、敦賀にある「大倉屋」という昆布屋の老夫婦がカネキ屋を訪れます。話をきくと大倉屋に聟いりした男が作ったおぼろ昆布をカネキ屋の清衛兵に目利きしてほしいとのこと。果たしてこの男の昆布は認められるのか、またこの男は何者なのか——。

※おぼろ昆布は、北前船によって蝦夷地(今の北海道)から運ばれた昆布を原料としており、その流通の背景には江戸時代の海運ネットワークが存在しています。


冒頭では、「講談とは何か」について解説がありました。講談とは、「座布団に座り、物語を語る伝統芸能」であり、落語とは異なり、話に“落ち”がなく、「人の歴史」や「人生の選択の瞬間」を描くものです。現在、日本全国に約1,000人の落語家が活動しているのに対し、講談師はわずか100人ほどしかいない、非常に希少な職業なのだそうです。講談では、「張り扇(はりおうぎ)」という小道具を使い、釈台を「パパンッ」と打ち、音を響かせながら語りが進みます。この音とリズムが講談の大きな特徴と言えます。いざ講談が始まると、教室の空気が一変。玉田氏の声の抑揚のつけ方、細かな演じ分け、リズミカルな張り扇の響きに学生たちは一気に引き込まれていきました。今回披露された上方講談作品「おぼろの便り」は、江戸時代の昆布商いを通じて、北前船による海運の重要性や、商人(職人)たちの技術と誇りを描いた作品です。北前船は、北海道から大坂・京都などの都市へ物資を運ぶ重要な流通手段であり、江戸時代の経済を支える柱の一つでした。感動的な親子愛が表現された作品を披露し終わると、玉田氏は静かに壇上を降り、学生の温かい拍手に包まれながら教室を後にしました。

玉田玉秀斎氏 感情表現豊かな上方講談の様子

この取材を通して、私自身初めて講談という日本の伝統芸能に触れました。日本に数少ないプロの上方講談師による素晴らしい話術を聞くことができ、その奥深さと魅力に感動しました。講義を受けていた学生も、感想を綴る手が止まることなく、次から次へと言葉が溢れているように感じました。今後の人生を豊かにする貴重な体験となったことを嬉しく思います。

上方講談師紹介

上方講談師 四代目 玉田玉秀斎(たまだ ぎょくしゅうさい)氏

四代目・玉田玉秀斎氏は、高校時代にスウェーデンへ交換留学した経験を持ち、国際的な視野を活かして活動されています。ブラジルではポルトガル語、ラスベガスでは英語による講談を披露するなど、外国語講談にも積極的に取り組まれています。

また、ジャズとのコラボレーションなど、音楽と融合した新しい形の講談も創作し、伝統芸能の可能性を広げられています。