反戦デモの分布から考える現代世界 2023.11.24

国境を超えた連帯

現在のイスラエルによるガザ攻撃を受けて世界中で数々の反戦集会やデモ行進が行われています。このこと自体、他国で生じる出来事が自分ごとでもある、とする国境を超えた連帯意識が存在していることを示しますし、グローバル化に伴う好ましい傾向です。ちなみにこのような意識が育っている重要な要因には、遠くの他人事を身近に感じさせることのできる現代の情報技術があります。

トランスナショナルな連帯は分断状態にある

しかし以下の「Armed Conflict Location and Event Database」の図が示すように、これらの集会は(参加する諸個人の意思は分かりませんが)全て同じように「反戦」や「平和」を呼びかけているものではありません。リンクから元の図を参照していただくとよりわかりやすいですが、デモの多くは(a)パレスチナ側の立場を支持するもの、あるいは(b)イスラエル側の立場を支持するもの、となっています。現状では中立的な平和集会は比較的少ないです。

Christina De Paris, 2023, “Infographic: Global Demonstrations in Response to the Israel-Palestine Conflict”, © 2023 ACLED. All rights reserved. Used with permission from ACLED.

イスラエル支持・パレスチナ支持の世界地図

地域的に見ますと、イスラエル支持の集会は欧州や北米に多く見られます。逆にパレスチナ支持の集会の多くは中近東〜アフリカ北部〜アジア圏にまたがっています(広義でいうイスラム圏)。ラテンアメリカやアフリカ南部などでデモや集会がないわけではありませんが相対的に関心が薄いようです。また、集団行動の統制が厳しい中国やロシアなどでは表面的にはあまり動きが見られません。とにかく、市民活動が活発な地域ではパレスチナ支持・イスラエル支持に活動が分かれているようです。

国境を超えた連帯意識の分裂

「パレスチナ」との連帯

パレスチナ支持が強い地域にはいくつかの共通点があります。アラブ人であるとする民族的なアイデンティティ、イスラム教徒であるとする宗教的なアイデンティティ、そして戦前には欧米の帝国主義に-そして戦後には米国の地球戦略によって-色々と犠牲を強いられてきたと言う犠牲者的なアイデンティティも共通しています。それらが現在連帯をもたらすように作用していると考えられます。また、欧州諸国の中ではアイルランドのパレスチナ支持が特に強いわけですが、それも、当国が長らく英国の植民地主義を経験した結果だと言えます。
「イスラム圏」出身の移民の多いドイツやフランス、オーストラリアやアメリカなどでも、イスラエル支持と相まってパレスチナ支持のデモも行われています。こうした国ではイシューによっては国内政治が移民の歴史と連動して高度にそして複雑な形で国際的になっています。

イスラエルとの連帯

世界におけるイスラエル支持集会やデモの分布からも明らかですが、市民レベルでのイスラエルの支持基盤は米国と西欧です。国家戦略的な背景をさておき、その大きな理由の1つには、今世紀に入ってから欧米での9.11をはじめとする一連のイスラム教を主張するものによる暴力事件の記憶があります 。メディアや実生活で「欧米」圏の人々はそうした自分達の社会を狙った暴力事件を経験し、自分達が直面している暴力をイスラエルが直面している暴力と同じ原因から来ているものだと認識するようになり、イスラエルとの連帯的な気持ちを強く抱くようになったとされます。

反戦・平和への呼びかけと分断された連帯意識

ガザでの戦闘を受けて、反戦・停戦を呼びかける国境を超えた連帯的な運動の多くは現時点では分裂した形で現象しています。一方で共通のアイデンティティの認識に基づく運動があり、もう一方では共通の脅威の認識に基づく運動があります。しかしながらこの構図は敵vs.味方の物語に複雑な状況を還元してしまうものです。このような二項対立自体が、戦闘が起きている重要な背景要因なのです。戦闘の当事者が将来的に同じ土地で共生する道をともに開拓しなければならない現状において必要なのは、こうした二項対立を超えた思想や運動です。その広がりと成長に今後期待を寄せたい。


いわゆる「イスラム主義者によるテロ」事件のほとんどが欧米ではなくイスラム圏の国で生じていることも付け加えます。フランスの政治刷新財団の研究データを参照:Les attentats islamistes dans le monde 1979-2021

マコーマック ノア 教授

歴史社会学、比較文化論

PAGE TOP