水際対策解除で再び整う自由な海外渡航 2023.05.11

日本入国時の規制が解除

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、新型コロナウイルス感染症(COVI-19)の緊急事態宣言を終了すると5月5日に発表した(Gregory 2023)。2020年1月30日に緊急事態が宣言されてから3年以上が経過しての宣言終了となった。日本の外務省は、WHOのこの宣言終了を受け、COVID-19に関する「感染症危険情報」をすべて解除した(外務省 2023b)。日本においてはCOVID-19の感染症法における感染症の分類が、5月8日から、これまで「2類相当」であったものが「5類」に変更された。これによりCOVID-19への対策は緩められ、従来のインフルエンザと同様の扱いとされることを意味する。日本政府は、この変更に先立って、日本に入国する渡航者に対する制限をすでに4月29日から撤廃している(外務省 2023a, 厚生労働省 2023)。それ以前は、日本に向けて渡航する人は、海外の出発地において、ワクチン接種証明書(3回分)またはPCR検査陰性証明の提示が必要であったが、この撤廃によりそれらは求められなくなった。これにより海外に居住する人々が日本を訪問しやすくなり、また、日本の居住者にとっても観光や出張などの短期海外渡航が一段としやすくなった。日本政府観光局(2023)の情報によると、2023年3月の「訪日外客数」は2019年同月と比べて約66%まで回復し、「出国日本人数」は約36%まで回復している(※1) 。研究者の出張や、学生の海外フィールド調査や実習も増加していくことだろう。

米国も撤廃へ

世界の多くの国がすでに入国時のCOVID-19陰性証明書やワクチン接種証明を要求しなくなっていたが、日本はその撤廃が遅れた国の一つであった。他の主要国では、米国は外国人に対しワクチン接種(2回)の証明を求めていた。しかし米国も5月1日にバイデン政権が、5月11日の緊急事態宣言の解除に合わせてそれを撤廃すると発表した(共同通信 2023)。日本と米国は制限が撤廃されたが、アジア圏の主要国では、例えばインドネシアやパキスタンは今もワクチン接種が入国の要件となる(2023年5月11日現在 外務省 2023c)。そうした措置はなくても、ワクチン接種要件を満たしていない場合はPCR検査を求める国もある。そのため渡航を計画した段階ならびに実際に渡航する時点において、各国の情報を確認することは必須である。報道による情報だけでなく、日本の在外公館や外務省のウェブページ(「新型コロナウイルスに係る日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国に際しての条件・行動制限措置」)、IATA(国際航空運送協会)のページを参照することをお勧めする。

日本の入国緩和に伴う課題

昨年は欧州や米国において、空港のセキュリティチェックや出入国管理において、増加した乗客に対応できるだけの人員配置が行われておらず、乗り継ぎのフライトに間に合わないことや、空港において時間を要することが報じられていた(リンダート・中村 2022)。しかし日本では今年に入ってから同様の傾向が強まり、空港で長い行列に長時間待たなければならない事態が発生している。多くの人にとっては、2023年夏の海外渡航はCOVID-19関連の規制がほぼない中での旅行となるが、出国と帰国の際に利用する日本各地の空港では、今年に入ってから激しい混雑が発生している(読売新聞オンライン 2023など)ことにも注目しておくべきだろう。これは、コロナ禍で減少した乗客に合わせて人員を削減していた状況から一転して乗客数が急に回復したために、人員配置が間に合っていないことに起因する現象である。筆者も本年1月に関西国際空港から国際線で出発した際に、制限区域に入るためのセキュリティチェックを通過するまでに45分を要した。こうした行列に長時間並ぶこと自体を避けることは難しいが、航空機に搭乗できなくなるリスクを下げる旅客側の対策としては、出発時のチェックインの際には航空会社が該当便の搭乗手続きを開始する時刻の前から並び、チェックインを完了させた後は速やかにセキュリティチェックに進むことであろう。航空会社によっては、オンラインチェックインの活用も検討するとよい。また、海外や国内の乗り継ぎの空港でも、規定の最低乗り継ぎ時間(minimum connection time)を満たしていたとしても乗り継げないリスクがあるかもしれない。乗り継ぎの時間を十分に確保した旅程を組む(例えば乗り継ぎは想定の倍以上の時間を見込むことや、後続の乗り継ぎ便がある旅程にする)ことも、移動をより確実にするためには有用であろう。

COVID-19以外の感染症にも注意

海外渡航をする際の健康管理に関しては、ここ数年多くの旅行者が翻弄され続けてきたCOVID-19のことだけに気を配ればよいということではない。前述した外務省の「感染症危険情報」の解除はCOVID-19に対するものであり、引き続きサル痘に対する情報は発信されている。海外渡航の準備としての予防接種に関しては、破傷風、日本脳炎、麻疹、狂犬病など、従来から存在する脅威への対策も再度確認しておくとよいだろう。特に、幼少期や小学生のときに接種しただけで、その後に自ら予防接種の要否を検討していない場合は、大学生になった頃に効力が低下する可能性があること(例えば破傷風など)を想定し、海外渡航に関する医療情報に強い医療機関で相談することをお勧めする。世界各地の感染症流行状況は、厚生労働省検疫所(FORTH)のウェブページで確認できる。

参考文献


※1.日本政府観光局(JNTO)発表の資料によると、2023年3月の「訪日外客数」は1,817,500人で、2019年同月は2,760,136人。2023年3月の「出国日本人数」は694,300人で、2019年同月は1,929,915人であった(日本政府観光局 2023)。

海外渡航者数が回復し混雑する関西空港(2023年1月29日)
筆者撮影
パンデミックの影響により1日に3便しか出発便がなかった当時の関西空港国際線出発便案内パネル(2021年3月10日)
筆者撮影

三田 貴 教授

政治学(未来学)、オセアニア地域研究、国際協力論、共生社会

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