アメリカから見る“Old Enough”(「はじめてのおつかい」) 2022.05.16

今日はニュース解説というより本学新入生数名がアメリカのNBCニュースのCulture and Lifestyle部門の解説記事に登場したお話をしたい。数日前、アメリカの友人Nancy Yuenから久しぶりに連絡があった。彼女はUCLA大学院時代の友人であり、Reel Inequality: Hollywood Actors and Racismの作者で最近はよくメディアに登場する社会学者である。Michie, do you know the show “Old enough? (「はじめてのおつかい」)”から始まったメッセージでは、アメリカで今日本のテレビ番組「はじめてのおつかい」が話題となっていて、その内容について話を聞きたいとのことだった。ちょうどEnglish for Academic Purposes Iという授業で初年度の学生がMoney managementの話題で新聞記事を読んでいた時期だったため、アメリカにいるNancyとオンラインで繋いで授業中に彼女から学生にインタビューしてもらうことになった。

「はじめてのおつかい」という番組は、幼稚園ないし小学生低学年の子供たちが親から頼まれ、一人もしくは兄弟とお買い物に出かける様子を追うドキュメンタリーだ。日本ではおそらく微笑ましく聴衆に受け取られているこの番組、なぜそんなにアメリカで話題になっているのか。アメリカでは、13歳未満の子供を一人にすること自体、ネグレクトとして扱われ州によっては罰則の対象となる。子供たちだけでの留守番でさえchild abuse(児童虐待)として考えられる現状で、「はじめてのおつかい」は衝撃的なドキュメンタリーなのだ。インタビューでは、Nancyの子たちは中学生だが一度も「おつかい」をしたことがないという話を聞いて、学生達は「それは日本ではありえない、高学年になると一人で外に出て買い物したりする子が増える」と驚いていた。アメリカでは「ヘリコプター・ペアレンツ」という言葉が取り沙汰されている。常に親がモニターしている状況が想定され、過保護の象徴として語られる。そうした中、条例の改正などが議論されはじめているのだ。そんなアメリカで「はじめてのおつかい」はHow real?(どのぐらい本当なのか)と思われても仕方がない。

インタビューでは日本でのコミュニティーの安全性や地方と都市部の違いなどの議論がでた。また子育ての理念として「可愛い子には旅を」と言った実地に経験させて学ぶという側面についても語られた。ただ必ずしも日本の子供達が自立しているとは言えないのではないか、アメリカでは学費は学生がローンを組んで自分で払うことが一般的であるのに対し、日本では学費は親が出すことが多く、大学や就活などの選択において親の意見が反映されることもある。こうした点を考えると社会と個人、そして家庭のあり方については、単にテレビ番組で紹介される例だけでなく、もう少し複雑な視点が必要なのではないかという意見もでた。

興味深かったのは、学生がメディアと社会の関係について議論を広げてくれた点だった。日本のコミュニティーでは常に周りに人がいて安全性が保たれる一方、それが煩わしさとして受け止められることもある。ある学生が最近話題になったWill Smithがアカデミー賞授賞式で妻についてジョークを飛ばしたコメディアンを打ったことを挙げながら、「日本では常に周りの目を気にする。社会から自分がどう見られるかを考えないで、自分の信念で動けることに驚いた。」と述べた。Nancyからはメディアで報道されることがどのぐらいその社会のあり様を示しているのかは、常に注視されなければならないというコメントがあった。これらのやりとりが学生の名前も含めてニュース記事に掲載された。その後、授業ではHow to become independentについて活発に議論され、mini-presentationでも興味深い内容が共有された。これから社会に出ていく学生にとってindependence(自立すること)を考えるいい機会となったのではないだろうか。

川島 理恵 教授

異文化コミュニケーション、医療社会学、会話分析

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