台湾支持を前面に出すパラオ大統領の国連総会演説 2021.09.29

国連総会の話題として、日本では菅義偉首相のビデオ演説(日本時間2021年9月25日)についてメディアが取り上げたが、太平洋にある人口2万人ほどのパラオ共和国のスランゲル・S・ウィップス・Jr・大統領の国連総会演説(日本時間9月22日)には、とくに台湾のメディアが大きく注目した。なぜなら、ウィップス大統領はこの演説の序盤で、台湾の国連参加を支持することを前面に出した主張をしたからだ(※1)。

しかし、国際場裡におけるパラオのリーダーによる台湾支持表明自体は、今に始まったことではない。パラオは台湾と外交関係を1999年に樹立して以来、機会あるごとに行ってきたことである。台湾にとってのパラオは、台湾を承認する数少ない国の一つであり(台湾の外交関係樹立国は15か国)、台湾の支持国であり続けている。パラオと台湾は、戦前に日本によって植民地支配されたという共通の歴史を持つ。そのため、パラオが独立する前の国連信託統治領時代から、当時の、パラオのニラケル・エピソン大統領と台湾の李登輝総統は日本語で直接会話をし、意気投合したという秘話もあるほどだ。

新型コロナウイルスが世界に影響を与えるようになって、パラオも人の流れを止めるために国境を事実上封鎖し、観光客の来島はなくなった。国内の医療資源が乏しいパラオにとって、感染を国内で蔓延させないことこそが最大の防御となり国益となることから、経済より防疫を優先させた。その甲斐があって、パラオでは2021年8月まで新型コロナウイルスの感染確認はなかった。その後、海外からの到着客による数件の陽性確認事案はあったものの、接触者が追えないような市中感染は起きていない。

そうした状況の中で、パラオと台湾との関係は、医療面でのパラオ支援とパラオへの観光客訪問再開という面で、積極的に展開されてきた。パラオが2021年4月に1年ぶりに「トラベルバブル」として観光を再開したのは、防疫が適切に行われてきた台湾からの観光客を対象にしたものであった(※2)。8月には、台湾からの観光客がパラオでワクチン接種を受けることができるツアーも実施された。ウィップス大統領は、演説の中でも、台湾とパラオの関係を「sterile corridor=無菌回廊」と表現している。両国とも、新型コロナウイルス感染症の防疫が、世界の中でも優れて成功している中での人的交流の可能性を示唆したものだ。台湾からの観光活動は、まだ限定的にしか実現に至っていないが、そう遠くない将来、規模を拡大しての観光客訪問に備えた予行演習をしていると捉えれば、観光立国パラオにとっては重要な一局面であろう。パンデミック以前に台湾以外にも多くの観光客を送り出してきた日本や韓国、中国(香港)との間では、このような動きはない。パラオが台湾一国との特別な関係を進めていることは、台湾にとっては、パラオとの関係を通じて国際社会でのプレゼンスを示すことができるという重要な意味を持つ。

今回、パラオの大統領による台湾支持がいつもより強調された背景には、このようにコロナ禍における台湾の優れた防疫体制と医療支援、そして観光再開の道筋を作りつつあることがパラオに安心感と将来に対する一定の期待感をもたらしていることと無関係ではないだろう。 ウィップス大統領の演説の全編は国連から提供されているので、ぜひ視聴してほしい(※3)。国連総会における各国首脳の演説は、その時の当該国の情勢や外交関係を理解するのに役立つことから、パラオに限らず、関心がある国の演説にアクセスしてみるとよいだろう。


※1 パラオ大統領、台湾受け入れを国連に促す=国連総会一般討論演説(中央通訊社)

※2 外交部、台湾とパラオの「トラベルバブル」は両国の新型コロナ対策成功の成果(中華民国外交部)

※3 Palau - President Addresses United Nations General Debate, 76th Session (English)(国連)

パラオ到着後にPCR検査会場に向かう台湾からの観光客
(2021年8月14日)
写真:Talbonsawim さん提供

三田 貴 教授

政治学(未来学)、オセアニア地域研究、国際協力論、共生社会

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