「一人っ子」から「二人っ子」、「三人っ子」へ——中国が直面する人口問題 2021.06.24

中国では1979年ごろから2015年まで、「一人っ子政策」が行われていた。この政策の名称は、高校の授業で耳にしたことがある人も多いだろう。しかし、この1組の夫婦につき原則子どもを1人に制限するという政策は、すでに過去のものとなっている。2016年からは1組の夫婦が2人目の子供を出産することが認められており、そして今年は5月31日の中国共産党中央政治局会議で3人目まで認める方針が示された。なぜ中国は、この数年で人口政策を大きく方針転換したのだろうか。 最大の理由は、中国の総人口が減少に転じることが予測されたからである。 中国は世界で最大の人口を抱え、2020年の国勢調査では総人口は約14億1,000万人にのぼる。もし「一人っ子政策」をしていなかったとしたら、中国の人口は17億~18億人に達していた(2013年11月、中国の国家衛生計画委員会の発表)と推定されており、現在より3~4億人多い人口を抱えていたことになる。人口の激増は「食べていけない」人々を生み出すことにもつながるため、人口爆発を回避できたことについては一人っ子政策の一定の成果と言えるだろう。

しかしながらこの人口爆発を回避するための努力が、総人口のピークアウトを早める結果につながった。中国の報道によれば、2022年、つまり来年にも中国の総人口がピークに達し、減少に転じる可能性が指摘されている。数年以内に中国は総人口ではインドに抜かれて第二位になるのである。

30年以上続いた一人っ子政策の影響は想像以上に根深かった。2人目の出産が認められても、「自分も一人っ子で育ったから子供は1人で充分」「教育資金がかかるから2人目は無理」と、あえて2人目をのぞまない夫婦も多く、2人目の出産を可とする政策の効果は限られていた。実際、出生数は4年連続で減少を続けており、2020年の出生数は1,200万人で、1949年の中国建国以来最大の落ち込みを記録した。1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)は1.3で、人口維持に必要とされる2.07を大きく下回っている(ちなみに2020年の日本の合計特殊出生率は1.34で、やはり低下傾向が続いている)。

したがって、今年3人目の出産を認める方針が示されたのは、2人目まで認める政策を行っても出生数が減少していることに対する危機感を反映したものと言える。

さらに、中国が直面している人口問題は、総人口の減少と出生数の減少のみではない。生産年齢人口も減少している。生産年齢人口(15~64歳)は、労働力であるとともに最大の消費者でもある。生産年齢人口のピークは2013年の10億人で、今後は中国の「団塊の世代」(1962~76年生まれ)が定年退職を迎え始めるため、2022年からは毎年約1,000万人ずつ減っていく計算になる。

一方で高齢者は増加している。65歳以上の高齢者は2020年までの10年間で6割増加し、2020年の国勢調査で65歳以上の人口が全体の13.5%になったことが明らかにされた。国際的な基準で、65歳以上の人口が全体の14%を超えると「高齢社会」と呼ばれるが、中国もまもなく「高齢社会」に突入する。また高齢者の絶対数が多いのも中国の特徴で、60歳以上の人口は2021~25年ごろには3億人を超えることが予測されている。

したがって現在の中国は、総人口の減少のみならず、少子化・生産年齢人口減少・高齢化とすべての世代の人口構造に問題を抱えていると言える。これまで中国は、一人っ子政策のもとでも人口が増加し続け、それによってもたらされる豊富な労働力が急激な経済成長を支えてきた。また、彼らは巨大な消費市場の支え手でもあった。今後出生数が減少を続けると将来の生産年齢人口の急速な減少につながり、経済への影響は深刻である。それは、現在世界第二位の経済大国である中国の国際社会への影響力にも直結する。子供を3人望むかどうかは、中国で暮らす人々の家庭の問題であるとともに、中国の社会問題でもあり、また国際社会への影響にも結びつく問題なのである。

須藤 瑞代 准教授

中国近現代史、東アジア国際関係論

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