首脳会談での振る舞いについて 2021.06.01

先日ワシントンのホワイトハウスで行われた米韓首脳会談においてハリス副大統領の振る舞いに注目が集まった。韓国のムン大統領と握手した直後に、ハリス副大統領が上着で手を拭うような仕草をする映像が「問題」となった。SNSなどでその行為の「意味」について様々な憶測が飛び交い、それがフォックスニュースなどで取り上げられた。2018年にシンガポールで行われた史上初の米朝首脳会談では、トランプ前大統領が北朝鮮のキム委員長と大勢の報道陣の前で握手を交わす場面があった。その後の報道では、どちらが先に握手を始動したのか、どのぐらいのタイミングで歩み寄ったのかなどが話題となった。ここで注目したいのは、首脳会談という国際関係の重要な場面においても、しばしば人々はそうした些細な振る舞いに「意味」を見出すということだ。

私が専門とする会話分析では、言葉だけでなく身体的な振る舞いや体、顔の向きなどコミュニケーションを成り立たせる様々な要素に着目して分析を行う。人の顔や体は、私たちの重要なコミュニケーションツールである。顔の向きはその人がメインに関わる相互行為の方向を示している。また体の向きを表す肩が向く方向は、その人の活動の指向性(orientation)を示す。例えば、レストランで他の客のテーブルに向かうウエイターを呼び止めた時、そのウエイターは顔の向きだけをこちらに向けて反応(うなづきや目線を合わせる、「少々お待ち下さい」など)をするが、肩は今まさに向かおうとしている客のテーブルの方向に固定していることが多い。それは、顔と体の指向性を分割することで、同時に2つのテーブルの客にとって失礼のないように振る舞っているからだ。その振る舞いは、ウエイターと客という関係性において、適切に振る舞うことのできる「良い」ウエイターというアイデンティティを確立することにもつながっている。つまり私たちは、常に淀みなく言語的にも身体的にも振る舞うことで、相手との関係性を作り上げているのだ。

首脳会談のニュースに戻ろう。ハリス副大統領の振る舞いが取り沙汰されているのには、理由がある。それはその一瞬の手の動きがその場のコミュニケーションに淀みを作ってしまったからだ。コミュニケーション上の淀み。会話であれば沈黙に相当するかもしれない。映画を見ていて恋人同士の会話で「I love you.」という言葉の後に相手が沈黙したらどう感じるだろう。それは恋人同士の関係に何らかの問題を示唆しているように解釈されるだろう。その行為の解釈はその場にいる相互行為の参与者が決めるものである。しかしながら、そうした淀みに私たちは敏感に反応してしまう。それはその淀みが両者の関係性を危うくさせる可能性を持ち得るからだ。

川島 理恵 准教授

異文化コミュニケーション、医療社会学、会話分析

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