“Level Playing Field”の覚悟 2021.05.11
近年、“Level Playing Field”というフレーズをよく見聞するようになった。もちろん、どこかの競技場の話ではない。
「公平な競争の場(条件)」という意味で、二国間・多国間関係の文脈において、経済分野で使われることが多い。筆者が関与した案件では日EUEPA(経済連携協定)の際に頻出していた。使い方はこうだ。「EU韓国FTAが先に発効したことで韓国企業と比べて日本企業のEUビジネスが不利になった。“Level Playing Field”となるよう、日本EU間の協定締結を急いでくれ!」
政治家・中央官庁の政治判断や本気度があれば、二国間協定などの締結自体は可能だ。しかし、問題は締結後の履行がどうかである。日EUEPAは発効から2年が過ぎたが、両国間では複数の専門委員会が設置され、定期的に履行状況を確認している。ここで筆者が注目したのは、今年2月に開催された「政府調達」の第2回専門委員会である。EUは交渉時から、EU企業が(日本政府や自治体の)公共調達に“Level Playing Field”で参入できるように強く求めていた。2月の議事録には、委員会開催前から“EU reiterated the concerns”(繰り返し懸念を表明した)とあり1 、今も“Level Playing Field”を巡って攻防が続いている様子が分かる。
実は、EUはこのところ、各国と締結した貿易協定の履行状況の監視強化に力を入れ出している。昨年7月に「首席貿易執行官」(通商総局の次長)を新設し、EUの貿易協定の履行強化(労働者保護、気候変動・環境対策含む)、貿易障壁の申告窓口の運営と障壁調査、WTOや二国間での貿易紛争解決の調整などの役割を担わせた。言わば「貿易協定の監視官」のような存在だ。
EUは、自由で開かれた貿易が経済の発展には欠かせないという信条を有している。二度の大戦で荒廃した地を、再び戦火に巻き込まないための知恵として、単一市場という「経済による相互依存関係」を構築し、その思想を海外にも拡大することで発展してきた。すなわち、自由貿易主義はEUのDNAなのである。しかし、世界の現状に目を向けると、異質の価値観を示す大国がパワーを持ち、世界をかき回している。EUは2020年6月の「貿易・投資障壁報告書」の中で、58カ国で438の貿易・投資障壁(輸入禁止、違法な関税徴収、差別的規制など)があると分析し、最多は中国で38としている。次いで、ロシア31、インドネシア25、米国24、インドとトルコ23と続く。現在のWTOに障壁を解消できる力は残念ながらあまり無い(故にWTO改革の必要性が声高に叫ばれている)。
これらの国々を眺めていると、自由貿易の根幹である“Level Playing Field”の世界への道のりは険しく、“Disorder(無秩序) Playing Field”の世界がまかり通ることにならないか、不安は尽きない。
- 外務省(2020),“EU-Japan EPA Joint Minutes of the 2nd meeting of the Committee on Government Procurement between the European Union and Japan for an Economic Partnership”,2021年2月10日.