トランスナショナルな反差別運動としてのBLM:対人的な暴力から構造的な問題を考える 2021.04.09

黒人に対する暴力や差別を告発するBlack Lives Matter (BLM)という社会運動は過去数年間の間に発展し、今では世界中に広がっています。ここでは、この運動が告発する個別的な暴力や差別の問題の背景にある、より大きな構造的な問題や歴史的な問題について、少し解説を加えたいと思います。

BLM運動の近因の一つは米国南部の警察官による黒人に対する暴力事件でした。事件は特定の個人が抱く差別意識の結果であり、その意識はまた米国社会に広く存在する黒人差別の反映でもある、ということができます。しかしながら、この説明ではより深い問題が見えてこない可能性があります。より深い問題というのは、米国における黒人に対する差別には、こうした直接的で対人的なものよりもさらに多くの人により深刻な影響を与えるものがある、ということです。

米国の国勢調査などで使われる黒人というカテゴリーに分類される人々は、例えば白人やアジア人というカテゴリーに分類される人たちに比べて、多くの不利益を被りながら生活しています。例えば就学年数は相対的に少なく、進学率も低い。所得水準も低い。健康状態も比較的悪く、寿命も短い。こうした、教育制度や経済制度や健康保険制度における結果の不平等を、「構造的差別」、あるいは「抑圧」と呼ぶことがあります。どちらかといえば、直接的で対人的な差別よりもこの類の差別の方が、おそらくより多くの人により大きな影響を及ぼしているのではないかと考えられます。

BLM運動は米国から他の国や地域にも素早く広がりました。例えばフランスで主にアフリカ系移民2世や3世の若者を中心に、オーストラリアでは先住諸民族アボリジニーを中心に、ブラジルやコロンビアでは黒人を中心に、BLM運動への賛同と同時にそれらの国における直接的並びに間接的・構造的な差別への抗議運動が現在も展開しています。国や地域の実情はもちろんそれぞれ違いますが、人種差別やそれと連動する暴力に悩まされていることに対する国境を超えた連帯的な意識が現在こうした運動において明確に表示されているといえます。

実は、このような国際的な連帯が確立されていることは、多くの国に共通の西洋的な近代の歴史的体験があることと関係しています。この西洋的な近代は産業化のみならず帝国主義や植民地主義を伴い、それらの支配体制を正当化するために人種差別主義的なイデオロギーが開発されました。上記で言及した国々などでBLM運動が展開していることが意味するのは、そうした帝国主義・植民地主義・人種差別主義やそれらが伴う暴力の問題が依然として深刻な形でグローバルに現象している、ということでしょう。

マコーマック ノア 教授

歴史社会学、比較文化論

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