Series グランドデザインへの試み Part3

 創立50周年(2015年)に向けた中・長期ビジョン「グランドデザイン」により、さらに活力ある教育・研究機関へと改革を実施している京都産業大学。その理想と使命をスローガン「パワーユニブ」に込めている。

 

鳥インフルエンザ研究センター長・大槻公一教授が語る 鳥インフルエンザ研究に、かける思い

国内外の研究施設と連携しアジアの拠点を目指す

 世界的な流行が心配されている鳥インフルエンザ。2004年に京都などで発生し、大きな社会問題になったことが記憶に新しい。  京都産業大学はこの鳥インフルエンザの病原体を解析し、ウイルスの進入経路の調査などを行う「鳥インフルエンザ研究センター」を今秋、学内に開設した。センター長に就任したのは、鳥インフルエンザ研究の第一人者として知られる大槻公一教授だ。

 「国内で発生した鳥インフルエンザは収まりましたが、H5N1型のウイルスは世界的に広がっており、再び日本に侵入する危険性が高いと考えられます」と指摘する。

 これまで鳥取大学で35年間、鳥の感染病や鳥インフルエンザの研究に従事してきた。新しく設置した研究センターには生態学、病原体解析、防疫の研究部門を置き、長年培ったノウハウや国際的な人脈を生かして活動する。この冬からは、鳥インフルエンザの主な原因とされる渡り鳥の調査を福井から兵庫にかけて行うという。

 「越冬するカモや白鳥などの水鳥は、腸内でインフルエンザウイルスを増殖させるので、採取した糞(ふん)を調べるとウイルスの有無が分かります。野鳥がウイルスを持っている段階で把握できれば、産業界などに警告を出し、防疫体制を確立できます」

 同様の調査は鳥取大学でも引き続き行われるので、地理的にもさほど遠くない京都産業大学と連携を図ることで、近畿・中国地方のウイルス侵入経路の解明が期待される。また、ベトナム、韓国などの研究機関とも学術交流を深め、鳥インフルエンザ研究のアジアの拠点を目指す考えだ。

 

研究センターの成果を社会に役立てる

 鳥インフルエンザ研究センターは、情報技術実験室棟の1階に置かれている。研究に従事するスタッフは、大槻センター長をはじめ学内外の研究者約10人。当面の間は、鳥インフルエンザウイルスの性質や状態を生化学や分子遺伝学の手法を使って解析したり、日本海沿岸に生息する野鳥を対象にした鳥インフルエンザウイルスの調査研究などが行われる。2年後には、高病原性鳥インフルエンザウイルスを扱えるレベルの実験室を備えた本格的な研究棟を作る計画だ。

 研究センターで得られた成果は、病原体侵入防止策の提言や行政と連携した防疫体制の構築などの活動に役立てられ、社会に大きく寄与することができる。

 「社会的に大きな影響を及ぼす病気は、国を越えて対応策を考えることが必要です。実際に発生すれば経済問題にまで波及し、鳥インフルエンザの専門家だけで事はすみません。学際的な広がりが持てる、総合大学にできた研究センターというメリットを生かし、教員間の融合も進めて対処にあたることができればと思います」

 鳥取大学時代には天然鉱物・ドロマイトを使った抗菌マスクを、共同研究で実用化した経験がある。この鉱石はコロナウイルス、鳥インフルエンザウイルスを減少させる効果が認められた素材で、うまく活用すれば防除に役立つ可能性は高い。京都産業大学でもこのような企業との産学研究を行い、社会の要請に可能な限り応えたいと考えている。

2006年12月3日 朝日新聞広告特集より