高校生のための観光文化学 高校生のための観光文化学

コロナ禍においても輝きを失わない京都の観光文化。
街に脈々と息づく文化を体験しながら学ぶ魅力について京都文化学科観光文化コースで教鞭をとる平竹耕三教授が語ります。

1959年京都市生まれ。82年京都大学法学部卒業。経済学博士。京都市文化芸術政策監、ロームシアター京都(京都会館)館長などを経て現職。著書に『自治体文化政策〔まち創生の現場から〕』(学芸出版社、2016年)など。

浮き沈みを繰り返し発展してきた「観光」

新型コロナウイルス感染症が世界を揺るがすなか、「観光」も大きな影響を受けています。日本を訪れる外国人旅行者の数は2009年の約679万人から2019年には約3,188万人と10年間で約5倍に増えましたが、新型コロナウイルス感染症が広がった2020年は約412万人にまで減りました。京都では祇園祭の山鉾巡行が2020年に続いて2021年も中止に。2年連続の中止は第二次世界大戦以来と話題にもなりました。

しかし、「観光」が厳しい状況に置かれるのは今に始まったことではありません。1991年の湾岸戦争、1995年は阪神淡路大震災、2001年にはアメリカ同時多発テロ事件、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故など、さまざまな影響を受け、そのたびに、たくましく回復し拡大してきました。

祇園祭は1150年以上の歴史を誇る行事ですが、途中、1467年に応仁・文明の乱で途絶え、足利義政の尽力と民衆の手によって復活した1500年まで、30年以上も中断したことがあります。室町時代にまで遡るこの当時から、さらにもっと昔から京都の街は多くの災難に見舞われています。事態を歴史的にとらえたとき、現在の状況を乗り越えた先に「観光」がさらに発展していく姿が見えるのではないでしょうか。

明治時代の山鉾巡行の風景

明治時代の山鉾巡行の風景

祇園祭の「鷹山(たかやま)」復活に見る京都の底力

祇園祭といえば今、「鷹山」という山の復興が注目されています。祇園祭では33基の山鉾が巡行しますが、それ以外に「休み山」といって巡行に参加していない山があります。鷹山も休み山のひとつ。いつから休んでいるかというと、江戸時代後期の1826年の巡行中に大雨に遭い懸装品が損なわれて以来といいますから、約200年になります。

2014年に約150年ぶりに巡行復帰を果たした大船鉾に続き鷹山を復興させようという気運が高まり、保存会が立ち上がって地道な活動が続けられてきました。その努力が実り、2019年には唐櫃(からびつ)巡行を行い、2021年には水引や胴掛*で飾り付けられ、御神体の人形をのせた姿が披露されるまでになりました。山鉾巡行に参加して都大路を練り歩く日も近づいています。
*水引や胴掛…山鉾を飾る幕などの懸装品。

祇園祭自体は前述したように1150年以上の歴史がありますから、約200年ぶりの復活でも、京都の人にとっては驚くようなことではないのかもしれません。日本の古都として築き上げられてきた文化が今も生き生きと市民生活に息づき力強く発展し続けている、鷹山の復興はそんな京都の凄みを感じさせます。

2019年 祇園祭の後祭巡行における「鷹山」唐櫃巡行

2019年 祇園祭の後祭巡行における「鷹山」唐櫃巡行

観光文化の担い手に学ぶ京都文化学科

文化学部京都文化学科の授業では、そうした京都の文化を体感しながら学べる機会を豊富に設けています。例えば、京都の観光文化スポットを実際に巡ったり、職人の方々にお話を聞いたりするフィールドワークを重視しています。私が担当するゼミでも、2021年度は、舞妓さんたちを支えている方々、例えば舞妓さんの髪を整える髪結さんやおこぼ(舞妓の高下駄)の職人さんへのインタビューなどを行いました。

ほかにも、老舗旅館や料亭の女将さんをゲストに招いておもてなしの精神を学ぶ講義、また、南座*の支配人や二条城のマネジメントに携わる方から観光と文化財の関わりを学ぶ講義などを開講し、京都文化の第一線で活躍する方々の生の声から観光文化への理解を深められるようにしています。さらに、それらの講義の中では京都と京都以外の観光の違いやツーリズムの広がりを旅行会社の方から教えていただく機会も設けています。
*南座…江戸時代初期に起源を発する、京都の大劇場。国の登録有形文化財。

二条城の二の丸御殿を見学

二条城の二の丸御殿を見学

開館から約90年を誇る京都市京セラ美術館でのフィールドワーク

開館から約90年を誇る京都市京セラ美術館でのフィールドワーク

新たな発見の連続、学びの旅に出よう

コロナ禍で観光客は少なくなっていますが、観光資源そのものが損なわれたわけではありません。神社仏閣、伝統文化・芸能・産業に関わる施設、老舗旅館・料亭・商店、また時代の最先端を行く芸術やブランドショップなど、京都で練り上げられた伝統や観光文化は脈々と続いており、それらの担い手から直接学べる魅力はとても大きなものです。

旅の値打ちが「知らない場所で人や自然と出会い、新たな価値に気づく」ことにあるとすると、京都文化学科での発見に満ちた学びは「旅の連続」といえるでしょう。多くの人と関わり、視覚や聴覚だけでなく雰囲気、匂い、温度などオンラインでは伝わらないことを全身で感じ取って学べます。例えば、1000年以上前に書かれた「源氏物語」の世界を、物語に登場する野宮神社や賀茂祭(葵祭)などで追体験できるなど、各時代の文化が継承されている京都の地でしかできない学びを、五感を研ぎ澄まして大いに楽しんでほしいと思います。

京都文化学科の学びをもっと詳しく知りたい人はオープンキャンパスへのご参加をおすすめします。これまでには、厚生労働大臣表彰「現代の名工」に選出された教員が伝統工芸の技術を解説し、更にはその技術の一端を体験する「東アジアをむすぶ漆文化~卵殻体験~」など、各回で京都文化学科ならではの体験プログラムを用意してきました。蓄積された文化を学び、観光と文化の関係を学び、関心があるテーマについて自分で答えを導き出す、そんな学びに積極的にチャレンジしたい学生にとって京都文化学科は最適の場であることを実感してください。

教員による漆文化などの解説

教員による漆文化などの解説

オープンキャンパスで卵殻細工を実際に体験

オープンキャンパスで卵殻細工を実際に体験

高校生へのメッセージ

高校生へのメッセージ

京都文化学科では全国各地から学生が集まって学んでいます。例えば東北地方から入学した学生のひとりは「京都で観光文化を学んで地元に持ち帰り、震災からの復興に寄与したい」と語っていました。高い志をもって学ぶ学生たちと交流しながら、みなさん自身の目標の実現をめざして学んでください。私たち教員も全力でサポートします。

高校生のための観光文化学 「旅」に彩られた観光都市・京都から紐解く