京産大・POWERの源 〜学生たちのSTORY〜

山城PRリーフレット作成

「すごい話やん。やってみようぜ!」

 川崎健太は思わず身を乗り出した。平城遷都1300年に向け、万葉集にちなんだ山城地域PRのリーフレット作成≠ニいう依頼が、彼の所属する文化学部小林一彦ゼミへ寄せられたのだ。突然舞い込んだ大仕事に、ゼミ生6人は大興奮。就職活動が始まる時期で、両立に不安もあった。だが、彼らはこのプロジェクトへのチャレンジを決めた。  依頼元の京都府山城広域振興局からは「山城の魅力を若者の視点から伝えてほしい」と、表紙以外のすべてをまかされたが、なにしろ初めての経験。何から始めればよいのか手探りの日が続いたが、山城を詠んだ歌をピックアップし歌碑を巡って写真撮影を行うことに。光を反射する歌碑の撮影は難しく、何度も撮り直しに行くことも。結局、現場に足を運んだ回数は20回を数えた。

 撮影後は歌の解釈だ。万葉集は古く、誤写などで意味不明なものも少なくない。訳本と照らし合わせ、時に教授にアドバイスをもらいながら、古典と向き合った。

 歌や歌碑の情報は正確に伝えながら、一方で学生の視点をどう盛り込んで親しみがわくものに仕上げるか。ここで現場に通いつめた経験が役立つ。「この場所から見た夕日がきれいだった」「宇治田原にしかないマンホールを取り上げよう」「神社ゆかりのカエルの彫刻がかわいかった」など、自分たちの視点で味付けができたのだ。

 初めてのビジネスメールに戸惑い、印刷会社にうまく考えが伝えられないなど、失敗も経験。それでも川崎ら6人は、失敗も勉強だと無我夢中で前に進み続けた。

「真剣に向き合えばそれだけ返ってくるものがある」

 山城地域の魅力を伝えたいと、夏休みもなかば返上し、奮闘を重ねて3か月。ついに観光リーフレット「お茶と万葉の旅〜やましろに恋をしよう!〜」が完成した。文化学部小林一彦ゼミ6人の、まさに汗と涙の結晶≠セ。発行は5000部。市役所や観光協会、JR奈良線沿線の駅やホテルに設置されることになる。

 自分たちが作ったものが形になり、いろんな場所で置かれることにみんなで盛り上がりながらも、川崎の気持ちはどこか揺れていた。「文章や歴史に造詣が深い人は多い」「信用されることが前提の印刷物なんや」。そんな思いがあらためてわき上がり、今更ながら間違いは許されないことと、情報を発信する責任の重さを実感し、たまらなく怖くなっていた。

 だがそんな心配をよそに、リーフレットはどの場所でも大変な人気を呼ぶ。あっという間になくなってしまい、彼ら自身も駅に置いてあるところを見られずじまいという嬉しい結果が待っていたのだ。川崎もようやく胸をなでおろし、みんなで感激を分かち合うことができた。

 仲間で協力し合い、時にはぶつかりあって築いていく関係のあたたかさ。ものをつくることの責任。社会で働くことの大変さを知ると同時に、「真剣に向き合えばそれだけ返ってくるものがある」ことを実感した今回の経験は、彼らに確かな自信を与えただろう。

 「やって良かったです」。川崎は力強くこう言った。いちばんやましろに恋をした≠フは、川崎たちゼミの6人なのかもしれない。