京産大・POWERの源 〜学生たちのSTORY〜

手づくりうちわでエコ宣言

「ぼくらでも社会に役立つこと、あるんとちゃうかな」

 モラトリアムと呼ばれる大学生活。だからこそただ漫然と過ごすのではなく、”今だからできること“にチャレンジしてみたい-。3年次生を目前にした春、神野恵介は模索していた。ちょうど環境問題が注目され、仲間の間でもエコの話題が上りはじめ、みんなの意識も高まってきていた。だが何かを始めようにもそこは学生、資金がない。

 そんな時、大学が主催する『サギタリウス・チャレンジ』の募集が目に留まった。活動企画が採用されれば、奨励金が給付されると言う。「これや!」。熱い決意を固めた神野ら7人のチャレンジが始まった。そして6月、何か月も試行錯誤を重ねた企画『1000人の子供たちの「エコ宣言」〜手作りうちわプロジェクト〜』は見事採用され、いよいよ実現の時を迎えることとなった。

 まずは近所の保育所からアタックだ。アポイントを取るため受話器を握った手が汗ばむ。神野は心の中で話す内容を何度も復唱しながら、番号を押す手の震えが止まらない。「はじめまして。私、京都産業大学の……」心臓の音が相手に聞こえるのではないかと思うほど緊張しながら自己紹介し、企画を必死で説明する。だが、「きっと歓迎してもらえるはず」という期待とは裏腹に、あっさりと断られてしまった。その後も「男ばかりで?」「教育学部でもないのに?」という理由で断られ続け、実現以前の壁の高さに、7人はすっかり落ち込んでしまったのだった。

「仲間がいたから工夫が生まれ、頑張ることができた」

  幼稚園や保育所の子どもたちに「手づくりうちわ教室」で環境問題を学んでもらおう-。意欲に燃える神野ら7人だったが、「教育学部でもない男子学生だけ」に警戒され、訪問すら拒否される日々が続いていた。十数件電話してようやく1軒の保育所に受諾され、神野は慣れないスーツを着て企画書を手に園長先生の元へ赴く。そして7人の熱意はついに実現の時を迎えた。

 赤・青・緑のウチワレンジャーがエアコン野郎という悪役を倒すアクションショーとエコ紙芝居で盛り上がった後は、子どもたちにうちわを作ってもらう。「ものをたいせつにする」「ごはんをのこさない」などの標語を1つ選んで好きなイラストを描けば、自分だけのうちわが完成だ。初めはぎこちなかった子どもたちへの接し方も回数を重ねるほどに慣れ、やがては「帰らないで」と泣かれるほどに。子どもたちの楽しむ様子や保護者からの感謝に、彼らの胸は喜びと充実感でいっぱいになった。結局この夏、学生祭典や地域の地蔵盆も合わせ、実施は15回を数えた。4年次生となる来年の夏にも続けようと、仲間どうしの意志は固い。

 「困難なことはいくつもあったけど、仲間がいたから工夫が生まれ、頑張ることができた。園の職員さんや地域の人々の優しさに触れたり、社会の厳しさを肌で感じたりしながら、人とかかわりあう大切さを学びました」と、神野は振り返る。

 ある時、一人の園児から、家族用に作ったはずのうちわを差し出された。「これはお兄ちゃんにあげる」。神野は生涯忘れられない、大切な宝物も手にしていた。