【文化学部】さあさ、いらっしゃい「ワタシ」の中へ -「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」でフィールドワーク

2022.06.17

文化学部国際文化学科専門教育科目の「国際文化演習ⅠA」と「国際文化基礎演習A」(担当:礒谷 有亮助教)の受講生が、合同でフィールドワークを行いました。今回訪れたのは、京都市京セラ美術館。同館で開催中の「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」で美術作品を鑑賞しました。受講生らが学んだ森村氏の作風や当日のフィールドワークの様子を紹介します。

(学生ライター 外国語学部4年次 福崎 真子)

京セラ美術館前での集合写真

美術作品を自分流に着こなす — 森村泰昌氏 独自の技法

森村泰昌氏は国内外で活躍する日本の現代美術家です。フィンセント・ファン・ゴッホの絵画作品《包帯をしてパイプをくわえた自画像》や、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画作品《モナ・リザ》、アメリカの女優であるマリリン・モンロー、アドルフ・ヒトラーを思わせる独裁者を演じた喜劇俳優チャーリー・チャップリンなど、美術史上や歴史上のさまざまなキャラクターに森村氏本人が扮するセルフポートレート(自分を撮影した肖像写真)の制作を35年以上続けてきました。

「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」の展覧会では、森村氏が1985年から撮りためたインスタント写真約800枚と、制作のために着用した衣装が展示されている他、作品のメイキング映像の上映、自作の小説を自ら朗読した「無人朗読劇」の上演が行われています。

展示室内の様子 まるで迷宮のよう
写真に写っているのは全て森村氏自身の姿
展示室入り口付近に書かれた森村氏のメッセージ

ここで、森村氏が入場者に向けて書いたメッセージの一部を紹介します。

「ひとりの人間のなかに分け入れば、多種多様な『ワタシ』がいる。
そんないつまでたっても謎が解けそうにない『ワタシ』の世界はじつに刺激的です。」
「人間って不思議で、不気味で、そしておもしろさに満ちています。
本展は、人間のそうした複雑な内的情景を『迷宮』としてとらえ、展示空間に反映しています。
多種多様な『ワタシ』が織りなす『迷宮劇場』、お楽しみいただければ幸いです。」
引用元:森村泰昌「『森村泰昌:ワタシの迷宮劇場』をご覧いただく皆さまへ」
(「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」京都市京セラ美術館)

キャラクターになりきろうと思えば、コンピューターなどを用いて簡単かつ完璧にできてしまう現代において、自分の顔に化粧をし、かつらをかぶり、自作した衣装を着て、自身をキャラクターの姿へと手間暇かけて近づける。そんな森村氏の作品から、「何かに扮しているけれど、そこには確実にワタシの存在がある」、「一人の人間が複数の存在として生きていく」という彼の人生観が見て取れます。

受講生の取り組み — 作品の元ネタと比較せよ!

普段の授業では、数多くの美術作品を細部まで観察し、それを自分の言葉で記述する「ディスクリプション」を行っている受講生。今回のフィールドワークでは、森村氏の作品とその元ネタとなった作品(美術家の絵画や著名人の写真など)を比較し、違いやそれぞれの特徴をレポートにまとめる課題に取り組みました。

森村氏のメッセージを読む受講生たち

受講生は展示室の中を複数人のグループごとで自由に見て回りながら、森村氏の作品一つ一つを観察し、特徴をメモに書き留めました。気になる作品が見つかると受講生同士で見せ合い、小声ながらも熱心に感想を言い合い、議論する姿が見られました。

2時間ほどじっくりと作品を鑑賞し終えた後、解散となりましたが、一部の受講生は礒谷助教と共に、同時開催されている他の展覧会も見学していました。

美術史という学問に限らない 『見る力』の大切さ— 礒谷助教の思い

礒谷助教は今回の展覧会見学を含め、普段から受講生に対して美術作品を細かくディスクリプションさせる作業に多くの時間を割いています。その理由について話を聞きました。

受講生に語り掛ける礒谷助教

「『見る力』を徹底的に養ってほしいと思っています。今の時代、SNSの発展でたくさんの画像を一度に見たり、ショート動画などを見る機会が増加していますよね。一つの物に対してそれを見る時間というのは、徐々に短くなっている気がします。それではもったいない。私たちはあらゆる物の大部分の情報を『見る』ことで得ているのだと考えれば、それを『意識的にじっくりやってみる』ことによって、普段より何倍もの情報を得られますし、新しい発見ができるはずです。私の授業では、受講生に物を細部まで見るクセをつけてもらい、得た発見を自分の言葉で表現する練習を反復して行っています。」

授業を振り返って — 受講生の思い

森村氏の世界観に浸った受講生に、授業に対する感想を聞きました。

本日の展覧会見学や、それに向けての事前学習で得た一番の学びは何ですか?

  • 知らない世界を知れたこと。写真といえばきれいでおしゃれなイメージがあったけれど、森村氏の作品はそれらを覆すような作品が多くあり、印象に残った。
  • 作品を描写する力。見たものを文字に起こすことを通して作品を鑑賞したから。
  • 「理解」は安易にできるものではないこと。美術作品を見た情報だけでなく、作者の生きた時代を取り巻く状況など含めて作品を鑑賞しないといけないことがよく分かった。

森村泰昌展で一番心に残った作品を教えてください。

  • 朗読劇。照明の当て方など、空間の作り方がとても綺麗に感じられた。
  • 森村氏が女装していたものが全て心に残った。男性が扮しているからこその耽美さとエロティシズムを感じた。
  • 洋風な人が立っている後ろにひな人形が置かれた作品。妙な違和感と不思議さがあって面白かった。
  • チャールズ・チャップリンの≪独裁者≫を模した作品は、元ネタとの違いがよく理解できた。
  • キャベツとウインナーを首に巻いていた写真。非常に大きなインパクトを感じた。
  • ローマの休日をモチーフにした作品。アン王女そっくりに扮しているところにとても衝撃を受けた。
  • 森村氏が着用した服の展示。その全てがおしゃれで可愛かった。

礒谷ゼミには、どんな魅力があると感じますか?

  • 絵画を分析することで観察力が身に付くところ。
  • 美術館訪問など、実際に作品に触れる機会が多いところ。
  • 作品や物事を見る目を養えると同時に、それを言語化する能力が身に付くところ。
  • 芸術作品を研究することで自分の芸術的観点の幅が広がるところ。また、ゼミ生同士で興味のあるジャンルが違うので、いろいろな意見交流ができるところも面白い。
  • 普段なら見過ごしてしまう物も、じっくり見ることで何かが発見できると学べるところ。

フィールドワーク終了後、受講生の一人が礒谷助教に駆け寄り「この展覧会(同時開催中の他の展覧会)の見どころや鑑賞方法を教えて欲しいのですが…!」と尋ねていたのを見て、研究熱心な心意気に感動しました。「見る力を養ってほしい」という礒谷助教の教えが、受講生たちにしっかり伝わっているのだと感じました。

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