「花は師匠」生け花について、未生流笹岡家元の笹岡 隆甫氏が講演

2021.08.03

共通教育科目「京都の伝統文化」がオンライン形式で行われました。この科目は、京都に対する理解を深め、「京都文化」への関心を促すことを目的に開講されており、毎回伝統文化の各分野で活躍されている方をゲストにお招きしています。第11回目の授業では、華道「未生流笹岡」の家元である笹岡 隆甫(ささおか りゅうほ)氏が登壇され、生け花の歴史や美しさの論理、生け花を通じて得たご自身の体験について講義されました。

(学生ライター 外国語学部1年次 川久保 陽太)


笹岡氏は現在、華道「未生流笹岡」の家元であり、祖父の代から一代飛んで家元を継がれました。小学生の時には長刀鉾のお稚児さんもされ、幼い頃から華道を学び、京都大学大学院では建築学を専攻されました。現在は家元として新しい分野にも取り組みながら活動をされています。

講義の序盤は、生け花に関する説明から始まりました。花の生け方は論理的なものであり、例えば人々の間で共通の美に関する考え方がないのと同じように、生け花にも唯一の美は存在しないのだそうです。しかしながら、生け花教室ではしばしば一つの解があるとされており、先人たちが編み出した最大公約数的な答えが美しいとされます。それを習得する、つまり基礎を身に付けることは第一のステップであり、最終的にはそれを破ることに力を入れることが、家元の務めだと述べられました。

次に、生け花を通じて学んだことについて話されました。笹岡氏は幼い頃に、華道家にとって最も大切なことは“美しい花を生けること以上に、その美しさ、あるいは命を分け与えてくれた花に対する感謝の気持ち。生け花を「生き様」だと感じ、花と対峙して生き様を磨き、人生観を教わること”と学んだそうです。

続いて、華道を広めるために行っている活動について、祇園祭で御神前に献花をされたことや将軍塚や五山の送り火など、京都にゆかりのある行事や場所で生け花を伝えてきたことを紹介されました。また、スポーツや文化活動のイベントや、大規模な国際会議で生け花をされたこともあるそうです。昨今では、対面で生け花を伝えることが難しいため、マスメディアを通じた活動を中心に華道を広める活動をしておられるそうです。

講義の中盤では、花を生けたことのない学生にも分かるように具体的な説明を交えながら、鶴瓶に紫陽花などの花を生けられました。生け花は「引き算の美学」と呼ばれ、余分な枝を切ることで一つ一つのラインを際立たせることが重要です。生け花と似たものに、花を敷き詰めるフラワーアートがありますが、生け花では一つ一つの花や枝の移ろいに目がいくように、あえて余白を演出します。また、真正面を向いた花には勢いが感じられなくなることや、花の向きや高さを不均一にすることなど、生け花の美しさについてロジカルに解説されました。

笹岡氏による生け花のデモンストレーション

講義の終盤には学生による質問に答えられました。その中で、幼い頃に「俯いてはいけない」と注意を受けたことを話されました。これは、“花の顔を上に向けるため”という技術的な面もあるそうですが、“生け花は自身の生き様であり、例え逆境に立たされても花を師匠として自分も上を向かなければならない”という精神的な面もあるのだと思うと話されました。また、生け花の楽しみ方に関する質問に対しては、生け花の流派は京都だけでも35近くの流派が存在し、それぞれが違った特徴を持っているため、まずは好みの流派を探して実際に鑑賞したり、体験会に参加したりすることが有効だと明かされました。実際に家に花を飾り、花から元気を貰い、花と共に生きることを実践するのが大切だと強調されました。また、現代アーティストと家元の違いについても説明され、家元には先達が受け継いできた知識を後世に伝える義務があること、そして子どもたちに生け花を職業としてではなく、花と共に生きる「文化」として伝えたいという思いを明かされました。

質疑応答をする笹岡氏(左)と吉澤教授(右)

講義の締めくくりに、掛け算の挑戦について話されました。笹岡氏は伊勢志摩G7サミットの際に初めて会議室の机の上に花を生けたり、自動車のイベントでコラボレーションするなど、さまざまな物と華道を掛け合わせて新しい物を作りだす活動をされています。「挑戦とは99%が失敗かもしれないが、1%でも次の世代に残るものがあればと思い、臆せずに挑戦するようにしています」と話されました。 最後に、「花は師匠」と考える気持ちが華道家にとって重要だと改めて話され、日本古来の人間と自然との付き合い方を世界に発信することで、人もまた自然の一部だと再認識することの重要性を語り、講義は幕を閉じました。


笹岡氏の講義は生け花を知らない私でも理解しやすく、また興味を引かれる内容でした。講義を受ける前は、生け花は人為的に作られた美であると思っていましたが、講義を通じて生け花の歴史や教えを学び、また華道家の方々の「自然を重んじ、花に教わり尊ぶ考え方」を知り、感動しました。

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