【理学部】宇宙物理・気象学科の卒業生の特別研究が学術雑誌に掲載されました

2023.02.01

宇宙物理・気象学科の卒業生である樓 麻彩さんが本学に在籍していた時に取り組んだ特別研究の一部が、同学科の小郷原 一智准教授とご本人との共著論文として出版されました。

背景

火星は冷たくカラカラに乾いた惑星だと考えられていますが、その低温ゆえに飽和水蒸気圧が低く、雲は比較的あちらこちらに存在しています。火星では一般的に液体の水は存在できないので、地球のような液体の水粒から成る雲ではなく、氷の粒から成る雲です。中でも特徴的なものが,南北に連なる山岳に西風ジェットが当たることによって発生する風下山岳波に伴う雲列です(図1)。風下山岳波に伴う雲列は地球でも頻繁にみられ、奥羽山脈の東側やロッキー山脈でも観測されます。しかし、火星北半球の夏に低緯度地域で形成される遠日点雲帯(Aphelion Cloud Belt)を除けば、火星の氷雲の季節変化や形状についてはほとんど研究例がありませんでした。そこで、本研究では、火星北半球中緯度に位置するフレグラ山脈(the Phlegra Montes)の東側に注目し、当該地域における雲列の季節別頻度や、雲列の典型的な波長を調査しました。
図 1 Mars Global Surveyorに搭載されたMars Orbiter Camera (blue band) によって観測された火星の風下山岳波に伴う雲列。画像左上に写る筋状の雲。

研究成果の概要

2,500枚弱もの画像を目視で確認し、風下山岳波に伴う雲列を見つけ出す作業は樓さんが担当しました。粘り強く、火星の画像を1枚1枚めくっていく作業の結果、フレグラ山脈の東側の地域においては、もっぱら北半球の冬季に風下山岳波に伴う雲列が発生することがわかりました。さらに、雲の列の典型的な間隔(波長)は20 kmから40 kmで、フレグラ山脈の急峻な斜面と同程度のスケールでした。このような雲列を形成させる風下山岳波は、地球の気象学で言うところの大気重力波の一種であり、大学院生が授業で使用する標準的な気象の教科書にも載っています。その理論によれば、20 kmから40 km程度の波長をもつ風下山岳波は、およその10 km以上の高度には伝播することができず、10 km以下の高度に閉じ込められていることがわかりました。すなわち、フレグラ山脈の東側で観測される雲列は、高度10 kmより低い高度に存在していることになります。火星大気のこのような低い高度を直接観測する方法は限られており、今回調査した風下山岳波が高度10 km以下に存在していることは、どんな観測をもってしても見つけられていませんでした。
惑星気象学はまだまだ未踏の領域が多く、本研究は、例え学部の4年次生でもうまく研究テーマを選んで粘り強く取り組めば、学術論文になるレベルの研究成果になることを著実に示すものです。

タイトル:Cloud trains associated with Martian Mountain Lee Waves on the eastern side of the Phlegra Montes
掲載誌:Earth, Planets and Space
掲載日:2023年1月20日
著者:小郷原 一智、樓 麻彩
DOI:10.1186/s40623-023-01767-x

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