【経済学部】地域づくり人特別講義「あなたは“のと”を知っていますか」

2023.03.14

能登町役場ふるさと振興課地域戦略推進室/能登町定住促進協議会 主幹/事務局 灰谷 貴光氏

経済学部の専門教育科目「地域づくり人特別講義」は、受講生が“地域づくり”について多面的に考察する能力を身に付けることを目的に開講している科目です。地域づくりのキーパーソンを講師として招聘し、その地域が抱える課題、取組みの経緯・苦労・成果など、そして地域づくりの現場から見た日本社会について、それぞれの視点からお話しいただきます。
今回の授業では、能登町役場ふるさと振興課地域戦略推進室の主幹であり、能登町定住促進協議会事務局の灰谷 貴光氏をお招きし、地域の人と共に創る「のと」の地方創生についてお話を伺いました。           
(学生ライター 経済学部4年次 木下 真菜)

灰谷氏は、京都産業大学を卒業後、2000年に旧内浦町(現能登町)役場に入庁され、現在も従事されています。さまざまな部署を経験されたのち、2013年からは、生まれ育った能登町を盛り上げるために地域活動を開始されました。日々、能登にしかできないユニークな企画を実施されており、2020年には、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」を受賞されています。

能登町は、石川県の能登半島北部に位置しています。海と山の大自然に恵まれ、そこで培った農林漁業などの生業、祭礼、食文化や星空の美しさなど、唯一無二の貴重な日本の原風景があります。それは、世界農業遺産である、「能登の里山里海」の暮らしそのものです。また、灰谷氏の地域活動の拠点である能登町小木地区は、全国有数のイカ漁の拠点であり、「イカのまち」として有名です。灰谷氏は、特産のイカのかぶりもので能登町をPRされています。

能登町観光パンフレット(能登町ホームページより)

能登町のPRをするきっかけになったのは、16年前。地元の高校や銀行、スーパーマーケットが次々と無くなっていったこと。また、2008年には、1988年から続いたイカのお祭りである「イカす会」も中止となったことだと語られました。生まれ育ったまちの賑わいがどんどん薄れていく姿を目の前にし、“このままでいいのか”と思うように。そう考えている間にも、人口減少化・高齢化・地域経済縮小化は進んでいきます。数字を見ても、どうすることもできない現実。そこで灰谷氏が考えたのは、「数字を超えること」だったと言います。

“最近ワクワクしたのはいつですか”これは、講義の冒頭で灰谷氏がおっしゃった言葉です。続けて、“能登は数字を超える何か(ワクワク)がある”とも述べられました。能登町を盛り上げるために、まずは関係人口を増やそうと事業を開始されました。関係人口=「ワクワクをつくる能登町ファン」を創出し、能登町が目指す姿は「若者が集い、能登の暮らしを受け継ぐまち」です。

恋路海岸(能登町定住促進協議会より)

能登町を「数字を超える町に」という思いを持って、事業に従事されている灰谷氏。能登町ファン創出事業として、ワクワクするさまざまな活動をされている全てに共通することは、多様性・対話・共創だそうです。また、誰がどうやってワクワクに変えるのか。という問いには、“内と外の人が共に創っていく”と語られました。具体的な事業では、ANAホールディングスグループ社員を受け入れたワーケーションや、能登人との対話の場となる、のと未来会議、大学生受け入れのフィールドワークなどがあります。どの取組みも「のとに出会う」を目的にしたものであり、それによって生まれる分野に縛られない交流は、とても魅力的に感じました。
活動を続けていく過程で、悩みや課題は尽きなかったと灰谷氏。あるとき、〇〇やってみたら?という提案はたくさん来るのに、それをするプレイヤーがいないという事態に。その際、地域の対話をきっかけに、町全体の関わり方の改善に成功されます。対話に関わることで、自ずと当事者意識が生まれ、提案は挙手に変化していったと語られました。地域みんなで、一歩、一歩進んで成功体験を積み重ねている能登町。こうした行動は、町を元気にし、人を呼び、手づくりでイカのお祭り「能登小木港イカす会」を復活させることに繋がりました。また、このイベントの動員数は1万人に達し、第24回ふるさとイベント大賞で優秀賞に選ばれています。

講義の終盤では、受講生に、素直な気持ちを大事にしてほしいとメッセージを頂きました。何をするにしても“なぜそれをしたいか”という考えを持っておく。そして、悩んだり諦めようと思ったときに、はじめに抱いた考えを振り返ってみる。時代は変わっていくもの、それに乗って気持ちも変わったのなら変えるべき。しかし、義務感や使命感に駆られて、自分の気持ちを捨てることは違うと語られました。また、諦めない気持ちを持続させることは難しいけれど、大事なことなのだと伝えられました。

受講生の質問に答える灰谷氏
今回の取材を通して、灰谷氏の「日常を非日常へ」という言葉が印象に残りました。ワクワクをつくる能登町ファンを増やすことは、同時に能登町の人々の「地域の誇り」を取り戻すことだと言います。地域の方々にとっては、当たり前の風景や空気、時間の流れ。しかし、見る人の目が変われば、それは当たり前の日常ではない、特別な非日常。能登町における交流とは、多様性を生み共創に繋がることはもちろん、新たな能登の魅力が見つかる場なのだと感じました。
PAGE TOP