【理学研究科】物理学専攻の大学院生が主著者となった論文が出版されました!

2022.08.09

【主著者】右から2番目:理学研究科 博士後期課程 3年次生 久間(鈴木)杏那さん 【共著者】右側:髙木征弘 教授、右から3番目:安藤紘基 助教、左側:今井正尭 研究員

雑誌:Journal of Geophysical Research, Planets
題目:A Sensitivity Study of the Thermal Tides in the Venusian Atmosphere: Structures and Dynamical Effects on the Superrotation
著者:Anna Suzuki, Masahiro Takagi, Hiroki Ando, Masataka Imai, Norihiko Sugimoto, Yoshihisa Matsuda
出版日:2022年3月19日
DOI:https://doi.org/10.1029/2022JE007243

研究概要

金星では自転を追い越す方向の東西風が全球的に吹いています。東西風の風速は地面から高さとともにほぼ直線的に増大し、高度70 km付近では自転速度の60倍にもなることから、大気スーパーローテーションと呼ばれます。このスーパーローテーションがどのように維持されているか、そのメカニズムは現在でも明らかになっていませんが、金星探査機「あかつき」の観測から熱潮汐波と呼ばれる大気中の波の寄与が示唆されています。

熱潮汐波は太陽光による大気加熱によって大気中に励起される惑星規模の波です。金星は高度45–70 km付近に存在する硫酸エアロゾルの雲によって全球が覆われており、金星が吸収する太陽光エネルギーの約7割がこの雲層で吸収されます。そのため、この雲層中で強く熱潮汐波が励起され、大気スーパーローテーションや上層大気の物質循環に強く影響していると考えられてきました。

熱潮汐波の構造は、「あかつき」による観測結果が明らかになる以前から、線型モデルや大気大循環モデル (GCM) によって調べられていました。それらの結果をあかつきの観測と比較すると、低緯度に現れる半日潮(※2)(東西波数2の熱潮汐波)において、東西風速場で15˚–30˚程度、温度場では90˚程度、位相のズレが見られます。さらに、計算に用いた大気安定度(※1)分布を検討したところ、高度60–70 kmの大気安定度を過小評価している可能性があることがわかりました。

そこで、本研究では、最近の観測に基づく3種類の大気安定度分布を用いて、熱潮汐波の構造がどのように変化するかを調べました。その結果、低緯度に現れる半日潮の鉛直構造が大気安定度に強く依存することがわかりました。一方、高緯度に現れる一日潮(※2)(東西波数1の熱潮汐波)は、大気安定度が高くなると振幅が弱くなるものの、鉛直構造に大きな変化はありませんでした。結果として、観測にもっとも近い大気安定度を用いたケースで、観測とよく一致する熱潮汐波を再現することができました。また、得られた熱潮汐波の構造から波による角運動量輸送を計算したところ、高度52–67 km の低緯度で角運動量が赤道に向かって運ばれ、0.2–0.5 m s-1 day-1 程度のスーパーローテーションの加速をもたらすことを見いだしました。本研究の結果は上部雲層高度における低緯度のスーパーローテーションの維持に、熱潮汐波による角運動量輸送が寄与しているという観測結果と整合的です。また、観測からは推定することの難しい、熱潮汐波による熱輸送の重要性も示唆されました。

研究打ち合わせの様子1
研究打ち合わせの様子2

用語

(※1)大気安定度 鉛直方向に運動する空気に働く浮力の大きさの指標
(※2)一日潮・半日潮 熱潮汐波のうち、波数が1のものを一日潮、波数が2のものを半日潮とよぶ
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