経済学部 梶谷真也准教授の論文がEconomics and Human Biology に掲載されました。

2021.03.02

経済学部の梶谷真也准教授の論文“The Return of Sleep”が、査読付国際学術雑誌 Economics and Human Biology に掲載されました。

論文の概要

生理学分野の研究では、睡眠時間の減少が疲労の蓄積や集中力の欠如という形で私たちの日常の生活行動に影響を及ぼすことが指摘されています。しかし、多くの経済学の分析では睡眠の必要性は生物学的に決まるという立場から、睡眠に注目する研究は多くありませんでした。本論文では、睡眠時間の減少(増加)が賃金率に与える影響について、経済学の考え方に沿った分析を行いました。
経済学では、個人の労働生産性を測る指標として「賃金率(時給)」を用いることが一般的です。生理学分野の研究の知見に従えば、睡眠時間は賃金率にプラスの影響を与えることが予想されます。ただし、賃金率と睡眠時間の関係はそう単純ではありません。例えば、標準的な経済学のモデルでは個人が消費と余暇から効用を得ると考え、利用可能な時間のうち労働に費やす時間以外をすべて余暇(自由な時間)として扱います。睡眠はこの余暇に含まれます。
ここで、ある個人に時間が1時間与えられている時、その個人が「寝る」か「働く」かを選択できる状況を考えましょう。もし時給が1000円の時に「働く」ことよりも「寝る」ことを選んだならば、この個人が1000円を得ることはできません。この場合、1000円(時給)は「寝ることを選択しなければ得られたはずの所得」であることから、経済学ではこの1000円を睡眠の機会費用とみなします。標準的な労働供給モデルの枠組みにおいて、ある条件の下では、睡眠の機会費用である賃金率が上昇すると個人は睡眠時間を減らし労働時間を増やします。すなわち、賃金率は睡眠時間にマイナスの影響を与えることになります。
このように、睡眠時間が賃金率に与える影響を捉えるには、賃金率が睡眠時間に与える影響と区別する必要があります。本論文では、計量経済学の手法を使ってこれらの区別を行いました。そして、分析の結果、週平均睡眠時間が1時間増加すると賃金率は最大で6~8%上昇することが統計的に有意に確認されました。この結果は、労働生産性を改善する働きを持つ睡眠の重要性を指摘しています。

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