此度五畿内近国大水

文化4年 (1807年)
木版墨刷(瓦版)1枚 24.3×34.2cm
出版 不明
※上段記事末に「知丈吉人」の署名あり

 文化4年(1807)に起きた水害について出版された瓦版「此度五畿内近国大水」である。白抜きの文字で表題を掲げ、図中では大坂・京都・高槻などの都市や山地は黒く刷り出し、それ以外の陸地と河道は「へ」の字形の線描で湛水する様子を示している。地形や浸水範囲の表現はきわめて概略的である。また、淀川水系は琵琶湖・宇治川・鴨川・桂川・木津川と、旧大和川流域の河川(「トウクワン川」(徳庵川か)と付記)が直線的に描かれている。図の上部の識語には、5月26日の暮六ツ時に琵琶湖周辺から大坂に至る各地が洪水に襲われ、その後に施行があったことなどが記されている。識語で最初の破堤箇所と記載されている「八ばんのきれ口」(現・大阪府守口市)、「とりかいのきれ口」(現・大阪府摂津市)は、図中にも示されている。
 「此度五畿内近国大水」の刷りの状態や筆致は、幕末期に隆盛をみせる地震などの災害摺物と表現・印刷方法が似ており、軽易で速報性を重視したといわれる災害摺物の特徴をそなえている。

(引用・参考)
鈴木康久編(2022)『淀川水系 河川絵図集成』一般財団法人近畿地域づくり研究所