マネジメント研究科 マネジメント専攻 篠原 健一 教授

作業組織の国際比較

作業組織の国際比較

日米の自動車メーカー職場組織を比較研究

これまでいくつかの研究テーマを手がけましたが、もっとも長く続けている研究テーマは「作業組織の国際比較」です。とくに日本とアメリカにおける自動車会社の職場組織を実際に訪れ、現地で聞き取り調査、資料収集するというスタイルで研究を重ねています。アメリカのデトロイト周辺にはほぼ毎年通い、調査を継続しています。
もともとヘンリー・フォードが世界で初めて成功したのが流れ作業による自動車の量産です。それまで自動車とは一握りのお金持ちがどちらかといえば趣味的に乗って遊ぶためのもので、一般大衆が気軽に買える金額の商品ではありませんでした。そこでフォードは大量生産による規模の経済性を生かして、一台当たりの販売価格をギリギリまで下げるため、徹底的に生産工程の無駄をなくすことにチャレンジしました。そこで働く人にはもはや高い技能は求められず、単純繰り返し作業を長いベルトコンベアの脇で延々と行うことが求められました。フォードにより洗練されたこの大量生産体制は、当時抜群の生産効率を誇り、それ以降いわば経営管理のお手本として、(GMやクライスラーといった)アメリカにおける自動車会社のみならず、世界中に多大な影響を及ぼしたわけです。
ただ、ベルトコンベアを用い抜群の生産効率を誇ったこの大量生産体制でしたが、実際にそこで働く人にとってみれば、けっして「楽しい、やりがいのある仕事」ではありませんでした。喜劇王チャップリンによる映画『モダンタイムス』のテーマにもなったのですが、「労働の疎外」状況、つまり働く人の人間性が軽んじられ、あたかも人間を機械の一歯車のように扱いがちでした。またそうした状況を打破・解決しようとする労働組合と、経営効率を追求したい経営側との間で大きな亀裂が入り、敵対的関係をベースにする近代的労使関係システムが歴史的に築かれてきました。これをアメリカでは「ニューディール型労使関係システム」と言います。細かい説明は省きますが、この「ニューディール型労使関係システム」は、細かい職務区分、先任権制度、苦情処理(仲裁)制度を核とし、ルール(労働協約)で厳密に職場管理する体制として、1970年代までには近代的労使関係システムのお手本のように見なされました。
そうした模範的と思われていたニューディール型労使関係でしたが、抱える諸問題が顕在化するとともに、1970年代後半に新たなモデルが現れます。その一つが日本的労使関係や日本的経営スタイルです。日本の職場における高い生産効率・品質もさることながら、協調的労使関係・組織内でのコミュニケーション・QC・カイゼン活動など、チームコンセプト・フレキシビリティ、インボルブメントなどのキーワードとともにアメリカで紹介されました。むろんこうした日本的経営は完全無欠な経営スタイルではありませんし、解決すべき諸問題を抱えてはいます。しかし諸外国において日本自動車産業の優位性が徐々に明らかにされるにつれ、数多くの日本研究が当時行われ、実際にアメリカ自動車産業の現場でも、日本的経営スタイルを強く意識した作業組織改革が今日まで試みられるに至ります。
前置きが少し長くなりましたが、こうしたアメリカ自動車産業における作業組織改革を継続的に現場レベルにまで下りて調査研究をするのが私の研究です。改革とはいっても、車種、ブランドの絞り込み、提携関係の見直し、生産拠点の海外移転、製品・国際戦略の見直しなど、経営トップが短期間で成し遂げうるものもあります。他方、生産現場・作業組織の改革は、現場労働者の働きぶりに負うところが大きいため、一朝一夕には進展しません。労使間で伝統的に対立をベースとする労使関係が育まれてきましたし、勤労観、価値観、経路依存性が大きく介在するため、改革が思うように進展しなかったり、新たにアメリカ的な特徴・工夫が生まれたりします。一外国人研究者である私が、彼らの改革努力について、日本人の目線から素朴に観察する。これが私の地道に続けている研究です。

海外の企業研究を通じて日本企業を知る

書籍

私が目指してきたのは、「外国研究を通じて日本を知る」です。たとえば自分が「のんびりした人間だ」とか、「器用な人間だ」という性格・個性は、自分だけ見つめていてもなかなか判別しません。むしろ他人を見て比較して、初めて自分はこういう個性の人間だと気付きます。同じように、直接に日本だけに目を向け、論文を書いて日本企業を語るのではなく、逆に外国企業を見ることを通じて、いわば裏から日本企業の特徴・個性を浮き彫りにできないか。その方がより立体的で面白いものが書けるのではないか。そう思って研究を続けてきました。
またある人にとって自国の社会制度は当然のことなので、観察し描写しても新鮮な感動はあまりなく、その意味で面白く描くことは意外に難しい。その点、外国人にとってある国の社会制度は「素朴な疑問・驚き」の連続です。そうした「素朴な疑問・驚き」に最初から最後までこだわり、観察する。ここに外国研究の面白さがあると思っています。
私の手掛けてきた研究スタイルとは、経営学の泰斗・藤本隆宏先生が言われるような、企業の「能力構築競争」プロセスについて、現場レベルで調べる調査屋だとも言えます。ただし、企業内部には無限ともいえる事実関係が交錯しており、整理整頓して事実を見るための切り口(方法論)が必要になります。そのための方法論として、仕事給付と反対給付(賃金)との取引関係を起点に事実関係を整序するという、伝統的な雇用関係論が採ってきたものに依拠しています。この雇用関係論の方法論は、恩師・石田光男先生が今日新たに研ぎ澄まされたもので、私は院生のころから叩き込まれてきました。
職場のオペレーションではよく「目標管理」、「方針管理」、「PDCAサイクルを回す」など「部門業績管理」の重要性が説かれますが、この巧拙は国・社会・組織によってずいぶん差が生じます。ややもすると研究としての経営学は理論に傾きがちで、この巧拙の実態を深掘りしないことも多かったのですが、実際の経営では、この巧拙こそ管理の非常に重要なポイントです。現にアメリカ自動車産業はこうした「部門業績管理」の不十分さも大きく影響し、2009年には経営危機に陥ってしまいました。(詳しくは石田光男・篠原健一編著『GMの経験』(2010年、中央経済社)と篠原健一『アメリカ自動車産業』(2014年、中公新書)を参照。) こうした点について、雇用関係論の方法論からフィールドワーク調査を通じて明らかにしていきます。
なお、研究に取り組むようになった経緯の詳細は、すでに本学部で行われたインタビューをご覧ください。

大学院での学びはやり甲斐と価値のある挑戦

インタビュー風景

優れた研究ができるか否か、いろんな条件に依存すると思います。テーマ自体の面白さ、方法論を使いこなせるか、調査対象との協力関係が築けるかはもちろん、研究者の執念、努力などもあります。優れた研究を続けることは難しい道ですが、ひょっとしたら成功出来るかもしれませんし、出来ないかもしれません。大変ですがやってみないと分かりませんし、とてもやり甲斐のあることは間違いありません。大学院で学ぶにしても、修士課程で終わるのか、博士課程まで続けるのかにもよりますし、いずれにしても平坦な道ではありませんが、非常に価値のある挑戦だと思います。もし大学院でさらに勉強することに興味のあるなら、ぜひ門をたたいてみてください。一緒に頑張りましょう。

PAGE TOP