マネジメント研究科 マネジメント専攻 中野 幹久 教授

サプライチェーン・マネジメントの研究

サプライチェーン・マネジメントの研究

意図せざる出会いから

大学卒業後、シンクタンクで働き、調査・コンサルティングの仕事をしていましたが、その頃は本当にやりたいことがまだ見つかっていないと感じていました。「自分の視点で物事を見られるようになりたい」と思い、30歳のときに休職して、社会人大学院(修士課程)に入学しました。このアクションが、人生の大きな転換点になります。
入学前は、経営学の中のある学問領域を学ぼうと考えていましたが、入学後に出会った「ロジスティクス」と呼ばれる領域にはまりました。まさに、「意図せざる出会い」です。同じコースに所属する社会人院生3名(私を含む)に指導教官3名という、恵まれた学習環境の中、アカデミックな世界にどっぷりとつかって、充実した日々を過ごしました。
修了後、復職してからは、仕事で携わる現実の事象と学術の世界で学んだ理論や視点を往復しながら、物事を考えるクセみたいなものを大事にしていきました。興味深かったのは、あるメーカーから受注した需要予測に関する仕事です。先輩といっしょにモデルをつくって、クライアントであるロジスティクス部門の方に提案したのですが、それが社内で採用されない。「モデルの予測精度は問題ないのに、なぜ?」と思っていましたが、後に、それは予測精度が問題なのではなく、組織の問題(具体的に言えば、構造とプロセスの関係の問題)だと確信することになります。こうした問題を、もっと専門的に、深く考えて、自分なりの答えを見つけられるようになりたい、という強い思いが、その後の博士課程の進学へとつながっていきます。シンクタンクから製造小売業へ転職し、より現場に近いところに身を置きつつ、自分が学んだ理論や視点を使って、目の前の経営現象を見ようとする姿勢を大切にしてきました。
その後、運よく大学教員となり、研究活動を続けていく過程では、自分がやっていることの「体系」を常に意識しています。現在は主に、「パフォーマンス(結果)に影響を及ぼすマネジメントの工夫(要因)を探る」研究に取り組んでいます。マネジメントの領域については、製造業を対象としたロジスティクスのマネジメントから、川上のサプライヤーや川下の顧客企業を含めた、サプライチェーン・マネジメント(SCM)に、研究関心が移ってきています。SCMのM(マネジメント)の部分については、最初は「プロセス」、次に「戦略」と「プロセス」の関係、さらに「戦略」「構造」「プロセス」の関係といったように、さまざまな要素を組み合わせながら、理解を深めています。これは、「戦略、構造、プロセスの3つのマネジメント要素の適合/不適合がパフォーマンスに及ぼす影響」についての研究になります。今後は、「人的資源」に着目して、パフォーマンスとの関係を分析したいという構想をもっています。

自分なりに一歩ずつ

書籍

このように、研究のストーリーは、最初はどこへ向かえばいいのか、自分でもよくわかっていないところから始まり、これだと思える学問領域との意図せざる出会いがあって、そこから一歩ずつ、自分なりに理解を深めていきつつも、同時に未知の世界がさらに広がっていき、そこへまた足を踏み入れていく、そうしたことが果てしなく続いている感じです。
しかし研究について、その意義を問われると、回答するのがなかなか難しいという状況です。論文を書けば、必ず理論面や実務面での示唆(implications)を求められますが、世の中の役に立っている実感は、実はあまりありません。アンケートやインタビューで調査にご協力いただき、情報を提供していただいた実務家の方々には、お世話になりっぱなしです。だからこそ、そうして入手した情報を、論文というかたちで、「なんとしても成果を世の中に出す」という意識は、かなり強く持っています。
サプライチェーンは、非常に範囲が広いですし、そのマネジメントは複雑です。したがって、少しずつ理解を深めてはいるものの、まだほんの一部の現象しか見えていません。例えば、サプライチェーンのリスク・マネジメントや持続可能なサプライチェーンの実現といったテーマには、ほとんど踏み込めていない状況です。「ここまでは理解しつつあるけれど、ここから先は手を付けていない」ということを、できるだけ意識しながら、研究を進めているのですが、その過程で、自分の視点や思考枠組みの狭さを、常に痛感します。あと何年、研究を続けられるかわかりませんが、精一杯やって、終わりが来る頃に、何か世の中の役に立てそうなことをまとめることができればと考えています。
魅力や面白さという点では、SCMの研究は、ひとりでは発展させるのがなかなか難しいので、やっぱり共同研究がおもしろいです。研究仲間に恵まれたことに感謝しています。ここ数年は、人的資源管理や組織行動を専門にされている友人との共同研究に取り組んでいます。異なる専門分野で知恵を出し合いながら、研究の楽しさを実感する日々です。

自分らしい研究を

インタビュー風景

どんな学問領域やテーマで研究するにしても、それが自分とフィットしていれば、楽しく続けられると思います。私はもともと理系で、学部のときに、理学と工学の中間あたりのことをやっていたのですが、そういう境界領域というか複合領域みたいなところに、なんとなくひかれていたのだと思います。SCMも、生産管理やロジスティクス管理、マーケティング、さらには戦略や組織といった、経営学のさまざまな領域を横断する部分に位置する学問領域ですが、私は、さまざまな領域で先人たちが築いてきた知的資産を取り入れつつ、新しいものをつくっていくことに魅力を感じるタイプなのだと思います。なにかひとつ、強固なバッググラウンドをもって、物事を見ることができればと、そういうことにあこがれていた時期もありましたが、今はむしろ、ひとつの学問領域にしばられず、必要なものをその都度取り込んで、自分らしい見方ができるようになれたら、と考えるようになりました。
ほかにも、SCMが自分自身とどのように関係しているのか、いろいろ考えたりします。ひとつあげるなら、「ある意味、自分に向いていないことが、自分にもできたとき、自分が何か満たされているという瞬間を何度か経験しており、だからこそ、それを実現することの難しさであったり、実現するための工夫がなんとなくわかるので、その要因を解明したい」、そういうことがSCMと関係していると感じています。自分が好きなことや得意なことだけが研究対象になるのではなく、もっと微妙な、「向いていないけれど、できるようになりたい」といったことにも奥深いものがある、と理解してもらえればと思います。
これから大学院への進学を目指す方々には、経営学は自分らしさを出せる学問だと思いますので、ぜひ自分らしい研究をしてほしいです。

PAGE TOP