マネジメント研究科 マネジメント専攻 近藤 隆史 教授

戦略とマネジメント・コントロール

戦略とマネジメント・コントロール

革新的な経営トップはコントロールに深く関与

大学院生の頃、指導教官の研究関心からの影響もあって、Simons, R. 1995.Levers of Control: How Managers Use Innovative Control Systems to Drive Strategic Renewal.Harvard Business Press.を読むことになったのが現在の研究テーマとも深く関わっています。そこでは、この本の副題にもある通り、戦略を実現しようとする経営者(トップ・マネジャー)が色々なタイプのコントロールをいかに行使(設計と利用)していくのかについて筆者のこれまでの研究蓄積をもとに書かれています。
普通、「コントロール」と聞くと、売上や原価などの会計数値に基づいた目標到達を組織メンバーに強く課すものとして、彼らの自律的な行動や意思決定を抑制してしまうと考えられがちです。ややネガティブなイメージがあるかと思います。ところが、Simons教授による著書からは、革新性の高い企業の経営トップは、そういったコントロールに対して積極的に深く関与する傾向にあるということが理論的にもまた色々な事例をもとにして提唱されています。伝統的な(会計ベースの)コントロール観からすれば画期的な発見です。その後は、多くの研究者に影響を与え、こういったコントロールの戦略実現に向けた積極的な利用について定量・定性的な研究が数多く行われてきました。もちろん、その多くは、彼の発見や主張を支持しています。
一方で、戦略性を強く意識したコントロールの利用のあり方が組織上の逆効果(上司・部下あるいは同僚同士のコンフリクトや現場の混乱)を招いてしまうことも報告されています。また、少し悲観的な見方をすれば、革新性の高い企業とコントロールの積極的な利用の関係は、組織内での行き過ぎた行動の抑制のために使われているとも解釈できるかもしれません。戦略とコントロールの関係はまだ研究の途についたばかりで、未解明な部分が多く残されています。このような研究の動向の中で、大学院時代以来、コントロールの戦略的な効果についての研究をすすめてきています。

マネジメント・コントロールは魅力ある研究領域

書籍

上でもお話した通り、基本的には、私の研究上の関心は、会計ベースのコントロールと戦略との関係です。もう少し説明をしておきましょう。戦略と言わないまでも、民間の営利企業であれ、非営利の組織(病院や自治体とか)であれ、ビジョンやそれを具体化した計画はあるかと思います。残念ながら、そういったものは、経営者が思い描き計画しただけでは、実現はされません。必ず実現するための周到なプロセスが必要で、それをマネジメント・コントールと呼んだりします。そこには、トップだけではなく、ミドルやロワーまで関与しますので、そのプロセスの範囲は組織全体にまで及びます。従って、研究も、様々な階層の多くの人(組織成員)が自らの業務遂行の観点から関わることから心理・社会学ベースでアプローチしていたり、上司と部下といったプリンシパル・エージェントの関係を扱うことから経済学的なアプローチ(情報の経済学や契約理論)も重要な分析の視覚になってきます。マネジメント・コントロールは、組織における戦略の実行に係るトピックスが集積していて、学際的にもアプローチすることができるため、魅力的な研究領域だと思います。
最近の研究関心を一つ紹介しておきます。経済学のジャーナルで発表された論文で、「イエスマンのセオリー」というのがあります(Prendergast, C.1993. A Theory of “Yes Men.” .American Economic Review. 83 (4), 757-770)。興味を引くタイトルだとおもいますが、その研究関心は、なぜ組織の中でイエスマンが発生するのか、それが数理的に解明されています。簡単にいえば、上司の考えていることを部下が知れば知るほど、評価される身である部下はその上司に同調しやすくなるということです。アメリカの学者の論文ですが、この結果は、日本の社会においても納得させられます。しかし、先に見た通り、上司(トップ)が深く関与する戦略的なマネジメント・コントロールの文脈で考えてみると状況はやや複雑です。上司が深く関与すればするほど、部下は上司の考えを知るようになるでしょう。ただ、イエスマンが増えれば、現場からの自律的・革新的なアイデアは望めなくなるかもしれません。マネジメント・コントロールの議論では、上司と部下の密な情報共有が特に重要とされますが、これでは、経済学での主張と必ずしも整合しません。こういったギャップをどのように埋めていくのかを現在の課題のひとつとしています。

学生であり、研究者でもある大学院でも学び

大学院は、学部とは違っていて、学生(大学院生)であると同時に研究者でもありますので、そのことを認識することが第一となるでしょう。その意識のもとで、これまで通り教科書を読んで何かを暗記したり理解するというのだけではなくて(もちろん重要ですが)、研究の課題を自ら見つけ出し、それをこれまでの理論体系の中にどのように位置づけ、どういった証拠を集めて、新たな知見を膨大な先行研究に追加できるのか、それらがどういった意義があるのか深く考えてもらう必要があります。
最近では、どの分野・領域であっても、学際的なアプローチが求められることが多く(実際、会計学の分野は学際的研究が盛んで、経済学、心理学、社会学などを広く取り入れ、研究が行われてきています)、研究の方法も多様化しつつあり選択肢も豊富にあります。分析的研究、統計的仮説検証、あるいは、ケース・歴史研究なんでもいいと思いますが、論文を書くだけでなく、それ以前に先行研究を読むということにおいて、幅広い知識を身に着けておくことに越したことはありません。そういったことを踏まえると、修士で2年は短すぎるかもしれません。学部生でいま検討中であれば、できるだけ早めの準備をしておくことを強く勧めします。

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