マネジメント研究科 マネジメント専攻 石光 裕 教授

目に見えないものをどう捉えるか~無形資産をテーマにして~

目に見えないものをどう捉えるか~無形資産をテーマにして~

難しそう、だけど面白そう

「企業が所有する資産にはどのようなものがあるでしょうか?」と聞かれて皆さんはどのように答えますか。多くの人の頭には、企業が所有する機械、工場や土地といったものが思い浮かぶと思います。これらは財務諸表上では有形固定資産と呼ばれ、企業が経営活動を行うにあたって保有する重要な資産であることに間違いはありません。ただし、実際の経営活動には、有形固定資産に加えて、知識やノウハウ、ブランドといった目に見えない無形資産も活用されています。皆さんが商品を買うとき、老舗が作ったものと聞くと、少し高くても買おうと思うのではないでしょうか。このとき企業は、これまで続いてきた老舗の信用力、他企業にはない固有の技術といった無形資産を用いて経営活動を行っていると考えられます。ところが企業が保有する資産を示した貸借対照表には、無形資産のうちごく限られたものしか計上されていません。なぜなのでしょうか?
貸借対照表に資産を計上するには、ある時点における資産の内容とその金額(価値)を明確にする必要がありますが、無形資産の場合はそれが難しいのです。企業が研究開発活動を行った場合を例に考えてみましょう。研究開発によって、企業内にノウハウや特許といった無形資産が蓄積され、それら資産にもとづく画期的な製品・サービスを顧客に提供することによって、企業は最終的に利益を得ることができます。この一連の流れをみても、ある一時点において中間成果として企業に蓄積される無形資産項目をすべて挙げることができるのだろうかという疑問が出てきます。また、研究開発を行えば必ず最終的な製品・サービスに結びつくのかといえばそうとは限りません。製薬企業では、巨額の予算を投じ研究開発を行っていますが、新薬の候補となる1万個の物質があったとして、そのうち新薬に結びつくのは1つあるかないかといった確率と言われています。このように、将来どのような種類の無形資産になるのか明確に分からないこと、収益実現に対して非常に不確実性が大きく価値の見積もりが難しいことが無形資産に対する投資の特徴であり、会計上の取り扱いを難しくしている理由といえます。
私が研究をはじめた2000年ごろ、企業の資金投下先が有形資産から無形資産へとシフトしていることがしばしば指摘されていました。無形資産の取り扱いが難しいのは分かっているが、重要性が増しているのでなんとか対応しなくてはならない、という機運が高まっていたころといえます。大学院生のとき、数あるテーマのなかから無形資産の測定をテーマに選んだのは、難しそうだけれど面白そうだなと思ったからでした。研究をはじめてしばらく経った頃、この問題はどのような観点から検討すればよいのだろうか、もしかしたら財務会計だけでは決着をつけられないかもしれない、テーマ選択を間違ったかなと考えることもありました。無形資産ではあまりにも広いので、指導いただいていた先生から、研究開発活動による無形資産に焦点を絞るのはどうかとアドバイスをいただき、研究を続けてきました。2018年には、投資家が入手可能な情報をもとに、どのように企業の研究開発活動を評価し、証券投資意思決定を行っているのかについて、これまでの研究成果をまとめて本として出版しました。出版後には、あそこはこうしておけばよかった、これについてもう少し調べておけばよかったなど気づきや反省が多くでてきて、まだまだやることがたくさんあるなと感じています。

越境と混沌がとても楽しい

書籍

研究の意義としては、企業経営において今後ますます重要となってくると考えられる無形資産について、その価値を見積もるためのヒントを提供することができるという点にあると思います。現在でも、さまざまな価値評価の方法が開発、提案されていますが、その一助になればと考えています。
企業による研究開発をテーマとしたため、さまざまな分野の情報に接することになりました。例えば、著作権、特許権、商標権といった知的財産について調べたり、企業の開発した新技術の特徴を理解するために工学関係の書籍を読んだり、簡単ではありますがプログラミングをしてみたりしました。一見すると会計とはあまり関係がないようなことをしているときがありますが、このような越境ができることがとても楽しいです。また、そもそも資産とは何かといった根本的なことを考え出すと、先行研究でなされていた説明では不十分であるように思えるときがあります。このようなときに、ではどのような視点から説明すると上手くいくのだろうかと解明の手がかりを探しているときは充実しています。本当は、解決の目途も立っていない混沌とした状況の真っ只中にいるのですが…。ですので、少しでも解決策らしいものが見つかったときは素直に嬉しいです。
最近どの話題にもAIという言葉がでてきますが、会計の世界も例外ではありません。私の研究テーマに関連していえば、証券投資の意思決定におけるコンピューターのアルゴリズム(プログラム)の活用がその一例といえます。これまで人間が行ってきた意思決定がアルゴリズムに取って替わられるという事態は着々と進んでいます。このような変化のなか、研究開発による無形資産評価だけでなく、企業価値の評価方法がどのように変化していくのかについては非常に興味がもたれるところであり、今後取り組んでいきたい課題となっています。

情報の受け手から発信側へ

インタビュー風景

大学院生になると、これまでとは自分の立ち位置が変わることに注意が必要です。これまでの読み手(情報を受ける側)という立場だけでなく、書き手(情報を発信する側)というポジションが加わってくるということです。
情報を発信するからには、現在ある知見に少しでも新しいものを足していくことが求められます。そのため、まずは自身の研究に関連する先行研究を確認する必要があります。皆さんも大学院生になったら、この作業にグーグルが提供している学術検索サービスGoogle Scholarを利用することもあるかと思います。ご存知の方もいるかと思いますが、このトップページにアクセスすると、検索ボックスの下に「巨人の肩の上に立つ(英語版ではStand on the shoulders of giants)」という言葉が書かれています。これは、どの分野にも巨人(膨大な先行研究)がいて、巨人に乗らなければ先は見通せない(新しい知見は発見できない)ということを表していると言われています。さらには、乗っている自分(追加できる研究成果)はとても小さいということも。この遠大な示唆に、少し気が遠くなりましたが、今では自分にできる最大限のペースでコツコツと研究を進めなさいというメッセージと勝手に解釈しています。
本学には電子ジャーナル、図書やデータベースなどが準備されており、先行研究を確認したり、自身の考えを深めるための資料が数多く揃っています。 また、大学院には、研究指導を行いアドバイスをくれる教員だけでなく、先輩、後輩、同級生もいます。これらの人たちと切磋琢磨して、皆さんのペースで(でもできる限り急いで)研究を進めていっていただきたいと思います。私もまだまだ挑戦していきたいことがたくさんありますので、皆さんと共に研究を進めていければと考えています。

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